女性の社会進出が進む中で、出産・育児や介護と雇用継続を両立させるためにあるのが「育児・介護休業法」です。いわゆる「育休」は、育児・介護休業法に定められた制度の1つです。
当記事では、2022年に改正される育児・介護休業法の内容について詳しく紹介します。今回の法改正では、男性の育児休業取得を促進する仕組みが多く設けられます。
育児休業を取得したい男性や夫に育児休業を取得してほしい女性は、2022年4月からの法改正の内容をぜひチェックしてください。
目次
育児・介護休業法とは
働く人が仕事と育児・介護を両立できるように制定されたのが「育児・介護休業法」です。育児・介護休業法には、主に下記のような制度が整備されています。
・育児休業
・産後パパ育休
・介護休業
・子の看護休暇
・介護休暇
上記の制度のほか、所定外労働、時間外労働、深夜業などの制限についても記されています。
企業などで働く労働者が離職する理由として、親の介護や出産・育児などのライフイベントとの両立が困難なことが挙げられます。そこに日本の大きな社会問題である人口減少が重なり、多くの企業が人手不足に悩んでいる現状です。
育児・介護休業法は、介護・育児と仕事のどちらかを選ぶのではなく、雇用を継続させながら必要不可欠な休みを取得できる制度を定めています。企業側は優秀な労働者の離職を防ぎ、労働者側は安定したワークライフバランスを実現が可能です。
育児休業制度について
育児休業は、原則として1歳未満の子どもを養育する労働者のための休業制度です。出産した女性だけでなく、配偶者である男性も取得することができます。
育児休業を取得できる期間は、子どもが1歳になる前日までが基本です。しかし、1歳を迎える時点で保育所へ入所できないなど、特別な事情がある場合には最長2年まで育児休業を延長できます。
労働者なら誰でも育児休業の取得対象者となるわけではなく、有期雇用か無期雇用か、雇用期間などによって取得できるかが決められています。
「5.【2022年4月スタート】育児・介護休業法の改正内容について」以降で、改正ポイントと合わせて育児休業を取得できる条件を紹介しますので、確認しておきましょう。
「育児休業」と「育児休暇」の違いについて
育児のために仕事を休むことを「育休」と呼ぶ人も多いでしょう。しかし、「育休」には「育児休業」と「育児休暇」があり、この2つは意味合いが異なります。
育児・介護休業法に定められているか?
「育児休業」と「育児休暇」は、法で定められているかに大きな違いがあります。育児・介護休業法で制度化されているのは、「育児休業」です。「育児休暇」は、企業が独自に定めた育児のための休暇制度であることが多い傾向です。
育児休暇は、取得期間や対象者、内容などを企業側が独自の判断で決定しています。そのため、1時間単位で取得できたり、小学校に就学してからも時短勤務ができたりと、さまざまな休暇制度を設ける企業もあるでしょう。
給付金の支給対象となるか?
「育児休業」と「育児休暇」の重要な違いとして挙げられるのが、育児休業給付金の支給対象となるかということです。
「育児休業」を取得すると、一定額の給与補償として雇用保険から育児休業給付金が支給されます。一方、「育児休暇」は法律の適用外の制度であり、育児休業給付金の支給対象とはなりません。
育児休業給付金以外で、企業が給与補償の制度を整備している可能性も考えられますが、あまり期待はできません。育児休暇の取得を考えている場合は、勤務先の担当者にしっかり確認しておきましょう。
育児・介護休業法の改正目的
育児・介護休業法は1991年に育児休業法として制定され、約30年の間で何度も改正されてきました。2022年4月以降に施行される改正法は、どのような背景から何を目的に改正されるのかを紹介します。
男性の育児休業取得を促進
今回の改正法の1番の目的は、男性の育児休業取得を促進することにあります。
2020年度の育児休業取得率は、女性が81.6%、男性が12.65%という結果です。男性の育児休業取得率は年々上昇傾向にあるものの、女性と比較してまだまだ低い水準が続いています。また、約4割もの男性が、育児休業の取得を希望していたが、取得できなかったという現状もあります。
育児休業を取得したい男性の希望を叶えやすくすること、男女がともに仕事と育児を両立できる社会を推進することが、法改正の大きな目的となっています。
(出典:厚生労働省「育児・介護休業法 令和3年(2021年)改正内容の解説」https://www.mhlw.go.jp/content/11900000/000909605.pdf)
女性の雇用継続
約8割の女性が育児休業の取得を実現していますが、職場復帰後のブランクやキャリア形成、育児・家事との両立に不安を持つ人は少なくありません。
男性の育児休業取得を推進して育児に携わることで、その後の育児・家事の分担につながります。仕事との両立に向けて、育児・家事を夫婦でバランスよく分担できることは大変重要です。
今回の法改正では、夫婦で育児休業を取得して助け合いながら育児をこなし、お互いのワークライフバランスを尊重できる改正内容となっています。
男性は育児休暇を取りづらい?その理由とは
2020年度の男性の育児休業取得率は12.65%と低い水準であり、かつ8割以上の男性が取得期間1か月未満と短期間の取得にとどまっています。
男性が育児休業を取得しなかった理由として、「収入を減らしたくなかった」「育児休業を取得しづらい雰囲気だった」「職場の育児休業取得への理解がなかった」などの理由が挙げられています。
収入減による家庭への影響や職場の業務都合、上司・同僚の理解不足から、育児休業の取得に抵抗を感じる男性が多い傾向です。本人の希望に沿った育児休業の取得には、家族や職場の理解、担当業務の都合など、現状として多くの課題があります。
(出典:厚生労働省「育児・介護休業法の改正について」https://www.mhlw.go.jp/content/11900000/000851662.pdf)
【2022年4月スタート】育児・介護休業法の改正内容について
2021年に制定された育児・介護休業法の改正法は、2022年4月より順次施行されていきます。主な改正ポイントは下記の5つです。
施行時期 | 改正内容 |
---|---|
2022年4月 | (事業主)育児休業制度の個別周知・取得意向の確認を義務化 |
2022年4月 | 有期雇用労働者の育児休業取得条件緩和 |
2022年10月 | 出生時育児休業(産後パパ育休)の創設 |
2022年10月 | 育児休業の分割取得が可能に |
2023年4月 | (事業主)育児休業取得状況の公表義務化 |
ここからは、改正内容について1つずつ解説していきます。
育児休業制度の周知・取得意向の確認を義務化!円滑な取得を叶える
事業主は、従業員本人や配偶者から妊娠・出産等の申し出を受けた際、育児休業制度の周知や取得意向の確認を行わなければなりません。
具体的には、下記のような取り組みが行われることになります。
・育児休業・産後パパ休暇など、休業制度に関する研修の実施
・育児休業などの相談に対応する相談窓口の設置
・自社の従業員の育児休業などの取得事例の収集および提供
・自社の育児休業制度体制および取得促進に関する方針の周知
この取り組みは、いずれも労働者が育児休業を取得しやすい環境づくりを推進するものです。これまで育児休業を取得したいけれど言い出せなかった人たちにとって、事業主側から取得意向の確認があると、取得の後押しとなるでしょう。
また、育児休業を取得するか確認する際は、「育児休業の取得を控えさせるような形」で行ってはならないとされています。例えば、育児休業を取得すれば業務に不利益になるとほのめかしたり、前例がないことを強調して育児休業を取得しないように威圧したりすることが当てはまります。
育児休業制度の周知・取得意向の確認は、自分の希望に沿った形で育児休業を取得できる改正内容でしょう。
有期雇用労働者が育児休業を取得する際の条件緩和
派遣社員やパート・アルバイトなど期間を定めて雇用されることの多い「有期雇用労働者」が育児休業を取得する条件が緩和されます。
現行法では、下記の2点を満たす必要がありました。
(1)継続して雇用された期間が1年以上であること
(2)子どもが1歳6か月を迎えるまでに雇用契約が満了することが明らかでないこと
2022年4月からの改正法では、(1)の条件を撤廃し、(2)の雇用契約が満了する予定時期のみをクリアしていれば、育児休業を取得することができるようになります。
子どもが1歳6か月を迎えるまでに契約期間が満了しそうな場合でも、更新の有無や更新回数の上限によっては、育児休業を取得できることがあります。雇用先の担当者に雇用期間や契約内容を確認して、育児休業を取得できるか判断してもらいましょう。
「出生時育児休業(産後パパ育休)」の創設
主に男性従業員を対象に、子どもが1歳になるまで取得できる育児休業とは別に「産後パパ育休」が創設されます。
「産後パパ育休」は、子どもの出生後8週間以内に4週間まで取得可能な休暇制度です。2回まで分割して取得することができるのもポイントです。出生後8週間以内であれば、2週間取得後職場復帰し、再度2週間取得することもできます。
また、産後パパ育休の取得期間中は、出生時育児休業給付金の支給や社会保険料の免除などのサポートも受けられます。産後パパ育休を取得する際の収入面への影響が気になるときは、勤務先の担当者に相談してみましょう。
産後パパ育休が創設された背景には、産後すぐで不安定な母子をサポートすることや短期間の育児を経験して育児休業の取得につなげることへの期待があります。夫婦2人で育児を行うことで、各家庭において育児休業の取得可否を考える貴重な時間となるでしょう。
育児休業の分割取得が可能になるなど制度の柔軟化
現行法では分割して取得することができなかった育児休業ですが、2回に期間を分けて取得可能となります。
改正法では、夫婦ともに育児休業を分割取得することができます。そのため、お互いの仕事を調整しながら、夫婦で交代して育児休業を取得することも考えられます。
また、特別な事情があり育児休業を延長する際の、育児休業の開始日が柔軟化されます。保育所に入所できないなどの理由から育児休業を延長する場合、現行法では育児休業開始日を1歳または1歳6か月時点に限定されていました。
改正法によって、育児休業を延長する際の開始日を柔軟化することで、1歳を超えてからの育児休業においても夫婦で途中交代することができます。
育児休業の分割取得、延長時の開始日の柔軟化は、繁忙期に職場復帰するなど企業にとってもメリットのある改正内容です。現行法では、長期の育児休業を取得する女性が多かった傾向ですが、育児と仕事を両立した新しい働き方ができるでしょう。
育児休業取得状況の公表が義務化
従業員数1000人以上の企業は、育児休業取得状況の公表が義務化されます。公表する内容は、男性の「育児休業等の取得率」または「育児休業等と育児目的休暇の取得率」です。
育児休業の取得状況は、自社のホームページや厚生労働省が運営するウェブサイトなどを利用して、広く公開しなければなりません。育児休業の取得状況を公表することで、男性の育児休業取得を推進する企業が増えるでしょう。男性の育児休業取得率が高ければ、企業イメージの向上や就職希望者の増加に期待が持てます。
企業側が育児休業の取得率アップを狙うことで、職場の理解にもつながり男性従業員が育児休業を取得しやすくなるでしょう。育児休業取得状況の公表は、今回の改正法が形骸化することを防ぐためにも重要な手段です。
男性の育休取得はどうなる?夫婦で育児休暇を取得するメリット
今回の法改正は、男性の育児休業取得に重点が置かれている印象を受ける人も多いでしょう。しかし、「夫婦で育児ができる」という点では、女性にとっても多くのメリットを感じる改正内容です。
夫婦で育児休業を取得することで、下記のようなメリットにつながります。
・育児の楽しさや大変さを共有できる
・家事・育児を分担して行う生活リズムを作れる
・良好な夫婦関係の構築を後押しする
・育児と仕事の両立に向けて夫婦でともに考えていける
夫婦で育児に専念する時間を取ることで、育児の楽しさや大変さを共有できます。育児・家事の分担もしやすく、どちらか一方に偏りが出ることも少なくなるでしょう。
また、出産とともに子どもへの愛情が深まる反面、夫への愛情が薄れていく女性が少なくありません。心身ともに負担の大きい乳幼児期の育児を2人で行うことで、良好な夫婦関係の構築にもつながります。
育児も仕事も、今後何年何十年と続いていくものです。夫婦で育児・家事、仕事の状況を把握し、お互いが尊重し合って両立に向けて考えていくために、男性の育児休業取得は重要なポイントとなるでしょう。
まとめ
今回は、2022年4月から改正される「育児・介護休業法」の詳細について紹介しました。「育児休業を取得したい」と伝えやすい環境づくりや柔軟な取得ができる仕組みなど、主に男性の育児休暇取得を促進する狙いから改正される内容が多くなっています。
また、夫婦で育児休業を取得することは、男性だけでなく女性にもさまざまなメリットが感じられるはずです。育児・家事と仕事のウェイトが夫婦どちらか一方に偏ることなく、お互いのワークライフバランスを尊重した生活を考えるきっかけとなるでしょう。