働く女性が妊娠中から出産後1年以内に利用できる制度「母性健康管理と母性保護」

女性の社会進出が進み、妊娠・出産後も働く女性が増える中、育児・介護休業法の改正により、2022年4月1日から事業主は、働く女性や働く男性の妻から妊娠・出産等の申し出があった場合、個別に育児休業等に関する制度(育児休業中・休業後の待遇や賃金、労働条件等)を知らせることが義務づけられました。

しかし女性が働きながら安心して妊娠・出産できるように定められている健康管理や母性保護に関する制度について、説明することは義務づけられていません。当記事では、働く女性の妊娠中から出産後の健康管理や母性保護に関する制度について紹介していきます。

1 妊娠がわかったら、すぐに会社に報告したほうがいい理由は?

働く女性が妊娠していることが判明した時、「安定期に入ってから会社に報告しよう」と考える方が多いと思います。しかし妊娠初期は、つわりや貧血・おなかの張りなど体調が不安定になることが多いです。

妊娠中および出産後1年以内の働く女性の母体と胎児を保護するために、事業主は、勤務時間中に妊婦健診を受ける時間の確保などを義務づけた男女雇用機会均等法の「母性健康管理」と危険で有害な業務などを禁じた労働基準法の「母性保護規定」を守らなければなりません。

2 妊娠中の健診時間確保や時差出勤を請求できる「母性健康管理」

働く女性の母体や胎児の健康のために、男女雇用機会均等法の「母性健康管理」では、「保健指導または健康診査を受けるための時間の確保」と「医師等の指導事項を守ることができるようにするための措置」を事業主に義務づけています。

2.1 勤務時間中に受診できる「保健指導または健康診査を受けるための時間の確保」

妊娠した女性労働者は、母体や胎児の健康のために、妊産婦の健康診査や検査または保健指導を受ける必要があります。事業主は、女性労働者から申し出があった場合、勤務時間中に妊産婦の健康診査や検査または保健指導を受けるために必要な時間を確保することが義務づけられています。
(男女雇用機会均等法第12条)

2.1.1 勤務時間中に妊婦健診などを受診できる回数は?

妊娠中の健康診査や検査・保健指導を受けるために、必要な時間の申し出ができる回数は、厚生労働省令で原則として下記の回数と定められています。

  • 妊娠週数0週~23週までは、4週間に1回
  • 妊娠週数24週~35週までは、2週間に1回
  • 妊娠週数36週~出産までは、1週間に1回

ただし医師または助産師が、上記と違う指示をしたときは、その指示により受診に必要な時間を申し出ることができます。

2.1.2妊婦健診などを受けるために必要な時間は?

健康診査または保健指導を受けるために必要な時間には、受診時間だけでなく、保健指導を直接受けている時間、病院など医療機関への往復時間と待ち時間もあわせた時間とされています。

2.2 時差出勤を請求できる医師等からの「指導事項を守ることができるようにするための措置」とは?

妊娠中の働く女性が、医師または助産師から健康診査等で指導を受けた場合、事業主は、母性健康管理指導事項連絡カードなどに記載された指導事項を守ることができるように、下記の措置が必要です。

  • 2.2.1 妊娠中の通勤緩和措置
  • 2.2.2 妊娠中の休憩に関する措置
  • 2.2.3 妊娠中の症状等に対する対応する措置
  • 2.2.4 新型コロナウイルス感染症に関する措置について

2.2.1 妊娠中の通勤緩和措置

医師または助産師から通勤緩和の指導を受けた妊娠中の女性労働者が申し出をした場合、事業主は、通勤ラッシュを避けるために時差出勤やフレックスタイム制、勤務時間の短縮などの対応が必要とされています。医師または助産師から指導がない場合でも、妊娠中の女性労働者が申出をした場合、事業主は担当の医師等と連絡をとり判断を求める等適切な対応が必要とされています。

2.2.2 妊娠中の休憩に関する措置

医師または助産師から休憩に関する措置について指導を受けた妊娠中の女性労働者は、休養や補食ができるように休憩時間の延長・変更、休憩回数の増加を申し出ることができます。また医師または助産師から指導がない場合でも、妊娠中の女性労働者が休憩時間の延長などを申し出た場合、事業主は担当医等と連絡をとり、判断を求める等適切な対応が必要とされています。

2.2.3 妊娠中の症状に対応する措置

妊娠中は、つわりや貧血、むくみなどにより、長時間の立ち仕事や同じ姿勢での仕事が大きな負担となります。妊娠中の女性労働者が、健康診査等で医師等から指導を受け、事業主に申し出た場合は、医師等の指導に基づいて作業の制限、勤務時間の短縮、自宅療養や入院など必要な対応をしてもらうことができます。

2.2.4 新型コロナウイルス感染症に関する措置について

保健指導または健康診査で医師または助産師から「新型コロナウイルス感染症に感染するのではないかという心配が、ストレスとなり母体や胎児の健康に影響がある」と指導を受け、事業主に申し出た場合は、医師等の指導に基づき在宅勤務や休業など必要な対応をしてもらうことができます。なおこの措置は、2023年9月30日までに妊娠中の女性労働者が、保健指導または健康診査を受けた結果を対象としています。

出典:厚生労働省「妊娠中及び出産後の女性労働者が保健指導又は健康診査に基づく指導事項を守ることができるようにするために事業主が講ずべき措置に関する指針(平成9年9月25日労働省告示第105号)」

3 妊娠中の危険有害業務の就業禁止などを定めた「母性保護規定」とは?

労働基準法では、妊娠中の働く女性の母性を保護するための「母性保護規定」があります。事業主は、母性保護規定に違反した場合、6か月以下の懲役または30万円以下の罰金に処せられます。

3.1 妊娠中の坑内業務・危険有害業務の就業制限

妊娠中の女性労働者を坑内での業務に就かせることは、全面的に禁止されています。また女性労働基準規則第2条で、事業主が、妊娠中の女性労働者を一定の重量物を扱う業務や有害なガスが発散する場所での業務、著しく暑熱または寒い場所での業務に就かせることなどを禁止しています。なお重量物を扱う業務と妊娠・出産・授乳機能に影響のある一定の化学物質を発散する場所での業務に就かせることは、すべての女性に対して禁止されています。(労働基準法第64条第2項・第3項)

3.2 妊娠中の軽易業務転換

妊娠中の女性は、他の軽易な業務への転換を請求できます。(労働基準法第65条の3)

3.3 妊娠中の変形労働時間制の適用制限、時間外労働・休日労働・深夜業の制限

変形労働時間制が導入されている業務でも、妊娠中の女性労働者が請求した場合は、1日・1週間の法定労働時間を越える労働は禁止されています。また妊娠中の女性が請求した場合は、時間外労働、休日労働、深夜業(午後10時~翌日午前5時の勤務)をさせることはできません。(労働基準法第66条第1項・第2項・第3項)

4 産前産後休業

妊娠中の働く女性は、出産予定日が6週間前(双子以上の場合は14週間前)から、請求すると産前休業が取得できます。なお出産当日は産前休業に含まれます。

また産後8週間(妊娠4カ月以上の死産や流産も含む)を過ぎていない女性を就業させることが禁止されています。ただし本人が希望し、産後6週間を経過している場合は、医師が支障がないと認めた業務に就業させることができます。なお産前産後休業中とその後30日間の解雇は、禁止されています。
(労働基準法第65条第1項・第2項、第19条)

5 出産後1年以内に復職した女性の「母性健康管理」と「母性保護規定」

出産後1年以内に復職した女性の健康管理と母性を保護するために、勤務時間中に受診できる男女雇用機会均等法の「母性健康管理」と残業や深夜勤務の免除などを請求できる労働基準法の「母性保護規定」があります。

5.1.1 出産後1年以内の女性が勤務時間中に受診できる「保健指導または健康診査を受けるための時間の確保」

出産後1年以内の女性は、医師または助産師から健康診査などの受診を指示された場合、受診に必要な時間の確保を事業主に申し出ることができます。なお妊娠中のように、必要な受診回数は定められていません。
(男女雇用機会均等法第12条)

5.1.2 出産後1年以内に復職した女性が医師からの「指導事項を守ることができるようにするための措置」とは?

出産後1年以内に復職した女性が、医師または助産師から健康診査等で出産後1年以内の症状に対応する措置を指導された場合、事業主は、母性健康管理指導事項連絡カードなどに記載された指導事項(作業の制限や勤務時間の短縮、自宅療養等)を守ることができるようにするための措置が必要です。
(男女雇用機会均等法第13条)

5.2.1 出産後1年以内に復職した女性の坑内労働・危険有害業務への就業制限

出産後1年以内の女性労働者が申し出た場合は、坑内での業務に就かせることができません。また出産後1年以内の女性を、重量物を扱う業務や妊娠・出産・授乳機能に影響のある一定の化学物質を発散する場所での業務、さく岩機、鋲打機等身体に著しい振動を与える機械器具を用いる業務に就かせることが禁止されています。また出産後1年以内の女性が請求した場合は、ボイラーの取扱い・溶接の業務、著しく暑熱な場所・寒冷な場所での業務などに就かせることが禁止されています。
(労働基準法第64条第2項・第3項)

5.2.2 出産後1年以内に復職した女性の変形労働時間制の適用制限、時間外労働・休日労働・深夜業の制限

変形労働時間制が導入されている業務でも、出産後1年以内の女性が請求した場合は、1日・1週間の法定労働時間を越える労働は禁止されています。

また出産後1年以内の女性が請求した場合は、時間外労働、休日労働、深夜業(午後10時~翌日午前5時の勤務)をさせることはできません。
(労働基準法第66条第1項・2項・3項)

5.2.3 出産後1年以内に復職した女性の育児時間

生後1歳未満の子供(養子も含む)を育てる女性は、1日2回各々少なくとも30分以上の育児時間を請求できます。(労働基準法第67条)

6 「妊娠報告をしたら仕事を辞めるように言われた」などハラスメントの相談先は?

妊娠中または出産後1年以内の女性への解雇は、原則として無効となります。
(男女雇用機会均等法第9条第4項)

「会社に妊娠報告をしたら、仕事を辞めるように言われた」「妊婦健診は勤務時間外に受診するように言われた」など妊娠、出産、育児休業などに関するハラスメントなどは、都道府県労働局の雇用環境・均等部(室)で相談できます。また必要に応じて、都道府県労働局長による助言・指導の申し出や紛争調整委員会によるあっせんの申請もできます。社内で解決できない妊娠、出産、育児休業などに関するトラブルについては、都道府県労働局の雇用環境・均等部(室)などに相談して早めに解決しましょう。

出典:厚生労働省「働く女性の母性健康管理のために」
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000174182.html

7 まとめ

普段は健康な女性でも、妊娠すると腰痛や膀胱炎など体調不良になりやすいため、気になる症状がある場合は、早めに受診しましょう。また仕事中にお腹が張る場合は、休憩時間の延長や変更を申し出て休憩室で横になって休む、食べづわりを防止するために休憩の回数を増やして、一口ゼリーやおにぎりなど軽食を食べ空腹にならないようにするなど、今回紹介した制度を活用して、妊娠中の不調な症状に対処しましょう。

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池口由里絵社会保険労務士
2015年3月に、島根県益田市にて社会保険労務士事務所を開業した池口由里絵と申します。 人材不足や改正育児介護休業法・2024年問題への対応などの労務管理に悩む社長さまのご相談をオンライン・メール・電話・訪問などご希望の方法で承っております。