各個人が大事にしていることを尊重すること。それがモチベーションの源になる~セントワークス株式会社 一之瀬幸生さん・前編

介護事業者を支援するシステム開発・販売や人材派遣紹介を展開するセントワークス株式会社。社内で「ワーク・ライフバランス」を推進したことをきっかけに、介護の分野に限らずさまざまな企業へのコンサルティングや研修も手掛けています。今回は、同社のワーク・ライフバランスコンサルタントの一之瀬幸生さんに、働きやすくするための社内での取り組みについて話を聞きました。

一之瀬幸生さんプロフィール
職業:ワーク・ライフバランスコンサルタント
お子さんの年齢:6歳、0歳
居住地:神奈川県

働きやすい環境を実現するために セントワークスの取り組み

➖最初に、御社の取り組みについて教えてください。
社員の人生を大事にしながら同時に生産性も高めていこうとワーク・ライフバランスに取り組んでいまして、主に以下3つの活動を行っています。

①朝・夜メール
毎朝メンバーに今日の業務内容をメール。そして終業のときには今日やったことを朝送ったメールに紐づけて送ります。その際、一日のトピックスや一言を書き添えます。

②カエル会議
「今までを振り返ってやり方を変えて、早く帰って人生を変えよう」という趣旨で、各部署で毎月1回行っています。チームごとに話し合いをして取り組む内容を決めます。仕事に限らず、ワーク・ライフバランスの実現に向かっていれば何でもOK。

③ワーク・ライフバランス目標
個人でも、仕事とプライベート両方の目標を決めます。それを部署内で共有し、お互いに応援したくなるような雰囲気づくりをしています。

➖御社は2006年の設立とのことですが、いつごろからワーク・ライフバランスの取り組みを始めたのでしょうか。
2012年ごろです。業務が拡大する中で長時間労働が恒常化し、社員のモチベーションが下がってしまうといった課題がありました。あるとき、当社の社長がふと思い立って、株式会社ワーク・ライフバランスの代表・小室淑恵さんのセミナーを聞いたんです。「ワーク・ライフバランスって、こういうことか」と腑に落ちて、社内で本格的に取り組むようになりました。その中で、「これは日本全体の課題だから、社外にも伝えていった方がいいよね」という話になり、今はワーク・ライフバランスに関するコンサルティングや研修というサービスも行っています。

➖ワーク・ライフバランスに取り組んでみて、社内の雰囲気は変わりましたか?
ワーク・ライフバランスというと、どちらもほどほどにバランスを取るというふうに誤解されがちですが、そうではありません。例えば、毎日会社で遅くまで働いていて、帰ったらご飯を食べてお風呂に入って寝て、起きたらまた会社に行くという繰り返しでは、視野が狭くなりますし、モチベーションも下がってきます。それでは、結局生産性が下がるのではないでしょうか。
それよりも、早く帰って家庭や趣味などプライベートの時間を持つことが大切だと思います。プライベートでの経験や知識を職場で生かしていくというサイクルができてくると、相乗効果が生まれて来るはず。ですから、私たちは「ワーク・ライフシナジー」とよく言っています。

➖在宅勤務の制度はありますか?
2015年ごろ、やっぱりこれからの時代、在宅勤務もできたほうがいいのではという話がでました。そこで、規則はないけれどトライアルで行うことになりました。何人かに在宅勤務を試していたところ、親会社が制度化してくれました。
当初は、育児や介護など何かしらの制約や条件がある人だけが利用できるというものでした。しかし、それだけではカバーしきれないケースも出てきたんです。例えば子どもが小学校に上がって早く帰ってくるようになり、一人で寂しい思いをしているとか。そういった相談があったときには、早めに退社して、いったん家の事をして落ち着いた後に、残りの仕事をしてもらうことにしました。一人ひとりの社員の事情に合わせて柔軟に制度を活用してきたここ数年間でしたね。その後、コロナ禍になった頃から一気に在宅勤務が進みました。
コロナ対策のための在宅勤務という側面が強かったのですが、だからといってコロナが終息したら元通りになるのではなく、オフィス勤務も在宅勤務も両方当たり前という状態を目指そうと決めて、就業規則を変えました。

会社でお仕事中の一之瀬さん。
何をしているか一目で分かる旗「私のア旗―(アバター)」を置いて、周囲とのコミュニケーションもスムーズに

➖在宅勤務とオフィス勤務、どれくらいの割合でされているのでしょうか?
人によって違いますが、私の場合、今は週3~4日在宅勤務です。ちょっとした声掛けや、リアルでのコミュニケーションも大事と感じていますので、週1回は出社する規定になっています。職種によりますが、基本的には在宅勤務を推奨しています。おかげさまで昨年、総務省の「テレワーク先駆者百選」にも選んでいただきました。

➖こうした数々の取り組みによって、社内の雰囲気やモチベーションは変わりましたか?
取り組んで急に変わるものではなくて、最初はやっぱり「そんなのやっても変わるかなあ」とか、「業務が多いんだから結局人員を増やさないと解決できない」といった抵抗感も社内にはありましたね。
そんな中でも地道に取り組んで1年、2年くらいたつと、いろんないい声が聞こえてくるようになりました。意見交換が活発になって業務改善が進んだり、お互いのプライベートを応援したりといったことが増えていきました。例えば、ある社員が屋久島に行きたいという目標を掲げました。屋久島まで行くには仕事を休まないといけないんですが、周りのみんなが「行っておいでよ」と言ってくれるようになって行きやすくなったそうです。とても楽しかったようで、また数カ月後に屋久島に行きましたね。それから、お気に入りのアーティストのライブに毎月のように遠征している人もいます。
こういうのって「ワーク・ファミリーバランス」になりがちでもあるんですが、私たちは全員のプライベートを大事にするという考えを忘れないようにしています。仕事が大変な時もあるけれど、自分の大事なことはちゃんとできるんだという意識が浸透して、社員のモチベーションも上がったように感じています。
労働時間の面では、以前は21時、22時まで会社にいるのが当たり前だったんです。ところが、取り組みを始めて2~3年たってくると、「そういえば19時以降はあまり残っていないよね」とか「うちの会社変わったよね」といった言葉が会話や「夜メール」で交わされるようになりました。気が付くと変わっていたということが多いなと感じています。
それから社内の空気でいうと、6~7年前に1カ月以上男性育休を取得した社員がいました。それから男性育休自体はあまり出なかったのですが、男性も家庭を大事にしていいという雰囲気に変わっていったんです。子どもの具合が悪いとき、母親が対応することがまだまだ多いかと思いますが、ママが仕事をしてパパが休むということも当社では普通にあります。子どもの行事で休みをとるというのも、その当時から出始めていましたね。育休まではとっていないけれど、家庭のことをきちんとやっている男性が多いから、女性も働きやすくなったという声を聞いたことがあります。

➖企業風土が変わってきた中で、これからどんなことに取り組んでいきたいですか?
これからも地道な取り組みをしていかなくてはと考えています。例えば RPA (定型作業の自動化)ですね。2~3年前ぐらいから、興味がある人に研修を受けてもらうなどして、RPAを作れる人材の育成が始まりました。そして、まだ数は少ないですが今年からRPAが稼働し始めています。さらなる業務の効率化を図っていくことで、場所にとらわれず働ける可能性がどんどん広がっていくのかなと思っています。

➖御社では、どのような人材を求めていらっしゃいますか?
まずは、相手のことを考えられる方ですね。自分もできているかどうか分かりませんが(笑)。お客様や職場の仲間に対して感謝の気持ちを忘れず、相手の立場にたって行動できることが大事だと思います。そうでないとお互い様の企業風土になっていきませんし、一人では仕事は成り立ちませんから。これからの時代、チームで仕事をするためのコミュニケーション能力がますます求められるのではと思います。
それから、前向き思考と素直さも大事ですよね。失敗があってもそれをきちんと自分の糧にして次に活かして前に進める人、自分の強みを知っていて生かせる人、そして自分のできないところ素直に認められる人は、成長していけると思います。

後編へ続きます!

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ABOUT US
ライター・Y田
フリーライター兼フォトグラファー。仕事と子育てを両立したいママをサポートするNPO法人との縁で、働き方をテーマとする記事を執筆するように。取材を通していろいろな人や企業に出会うことが楽しみ。プライベートでは、中学生の女子の母。