元に戻ることにこだわらなくていい。新たな得意分野を見つけるのも一つの道

プライベートも仕事も大事にしながら相乗効果を上げる働き方を追求するワーク・ライフバランス。今では当たり前のように使われている言葉ですね。その草分け的存在である小室淑恵さんが2006年に設立したのが「株式会社ワーク・ライフバランス」。同社では実際にどんな働き方をしているのか、気になりますよね。
今回は、同社のコンサルタントで、4児の母という工藤真由美さんにインタビュー。3年間に及ぶ不妊治療と仕事の両立についても語ってくださいました。

工藤真由美さんのプロフィール

職業:コンサルタント
お子さんの年齢:7歳、4歳、4歳、2歳
居住地:東京都

「新しい休み」の導入で週4勤務も可能に

―御社の事業内容を教えてください。
 企業の働き方改革により業績と従業員のモチベーションの双方を向上させることにこだわり、働き方改革コンサルティング事業を中心に展開しています。これまでに自治体・官公庁も含め企業1,000社以上を支援。残業30%削減に成功し、営業利益18%増加した企業や、残業81%削減し有給取得率4倍、利益率3倍になった企業など、長時間労働体質の企業への組織改革が強みです。
 
―働きやすい環境への取り組み、それに対する社内での反応、また、現在感じている課題がありましたら教えてください。
最初は法定通りの制度しかありませんでしたが、社員が結婚や出産、不妊治療、介護を経験したり、ワーケーションや資格取得、副業に関する相談があったりするたびに、どのように会社の制度に反映するか検討を行っています。

制度化した例

・有給休暇は一部、時間単位で取得できる
・15分単位で振替休暇を取得できる
・男女ともに5日間妊婦健診の休みが取れる
・面談費用補助
・不妊治療補助金
・資格取得支援金

制度化した後も、社員からの提言があると、そのつど見直しを行っています。例えば、出産や育児のために手厚く設計した制度は、独身や子どもが大きくなった人には使えないため、お休みを多く取得している人は少し申し訳なさを感じることもありました。そこでいくつかの制度を撤廃し、「新しい休み」として理由を問わずに使える休みを新設しました。
有給休暇と合わせて利用すれば、ほぼ週4日勤務にすることが可能です副業や、市区町村の委員、資格取得や学び、海外長期旅行、ワーケーション、不妊治療、自分や家族・親族の体調ケア、家業の手伝い、被災地のボランティアなど、育児に限らない様々な理由で、勤務時間を調整できるようになりました。
また、場所を問わず勤務することが可能なため、最近では東京から地方へ移住する人も増えています。結婚して他県へ引っ越すという派遣社員の方に、継続して働いてもらっているケースもあります。「前例がありません」と、派遣会社の方からも言われました。
お互いのスキル(どのくらいの時間でどんなことができるか)、仕事の受け渡しの方法、コミュニケーションの方法、この3つをプロジェクトに関わるメンバー間で共有できていれば、リモートでも仕事はスムーズに進むと思っています。

プレスリリース

(株)ワーク・ライフバランスが第1回「不妊症・不育症サポート企業アワード」中小企業部門で「厚生労働大臣最優秀賞」を受賞、法定有給休暇に加えて年間36日の「新しい休み」などが高評価~不妊・不育症治療を伝えずに休めるため従業員の心理的負担を軽減、不妊治療奨励金による経済的支援も実施~
プレスリリースはこちら

全員在宅で行った社内会議の様子

いつフルタイムで働けるようになるのか……     不安な気持ちを救った言葉とは?

―工藤さんの現在の働き方を教えてください。
新型コロナウイルス感染症が広がる前は、在宅と出社が1:9くらいでした。出産前後の期間は、在宅が5割以上で、ときどき出社するという働き方をしていました。
コロナ禍では、月に1〜2回誰かが出社するくらいです。あとは、家で仕事をするのが難しいときに出社する人もいます。私はほぼ100%在宅です。
 
―家でできないから会社に行くというのは、普通とは逆ですね。
そうですね(笑)。在宅ではできないことをなくしていく中で、どうしても残った仕事が、郵便物の処理や、クラウドではだめだと言われた際の押印書類です。
 
―工藤さんが入社したきっかけを教えてください。
地元で数年働いたら専業主婦になるのが自分のルートだろうとずっと思い込んでいました。ところが就職活動を考えたときに、現在の社長である小室が講演している動画を見て、考えが変わりました。「小室さんみたいな方と、いつか仕事で出会えるようなキャリアを築いていこう」と思ったのです。
そして、社会人2年目の時に「この先、結婚や出産をすることがあったらどのようにキャリアを描くのか」を考えるようになった矢先、小室が“休業や時間制約があっても働きたい人が働き続けられる社会を目指す”会社を立ち上げたと聞き、「私の人生を捧げるなら小室さんの会社しかない!」と思い、「アルバイトでもよいので働きたい」と志願しました(笑)。
 
―育休や産休中のブランクはありましたか?その間、どんな想いを抱いていましたか?
当社は、復帰後の働き方を柔軟に対応してくれるので、育休の取得期間が短い人が多いです。私も1・2回目の出産の際は、産後休暇のみで育児休業は取得せず、時短勤務で復帰しました。産前休業と合わせても4カ月ほどなので、ブランクはさほど感じませんでした。
 休業期間中は、思い切り子育ての醍醐味と大変さを満喫する日々でした。ただ、私は性格的に仕事や社会との繋がりを持ち続けている方が、自分らしさを保てて子どもともよい距離感を作れるな、と徐々にわかってきました。ですので、会社の人に遊びに来てもらった時に仕事の様子を聞いたり、後輩の面談をたくさん引き受けたりするなど、休業中も仕事のことを全く考えない期間ではなかったです。

双子のお子さんを連れてオフィス勤務


―育休なしの復帰で、体力面は大丈夫でしたか?
当社では、持続可能な働き方、「ワーク・ライフバランス」というテーマを追求しています。1つの案件を2人で担当、複数名で情報を共有して進めていくのが当たり前。何かあっても代わってくれる人がいるので安心です。それに、在宅勤務やお客さまのところに直行して直帰することが可能でしたので、短時間の勤務で復帰するという選択がしやすかったですね。
むしろ大変だったのは不妊治療の期間でした。今でこそ4人の子どもに恵まれましたが、1人目を授かるまでに3年間の不妊治療をしていました。現在は理由を問わず休める「新しい休み」がありますが、当時はまだなく、有給休暇の消化だけでは足りませんでした。不妊治療は何度も診察が必要ですし、かつ診察日は突発的に決まるため、仕事か治療か、悩む場面がたくさんありました。治療には多くのお金が必要で、休んでいる場合ではないという葛藤もありました。
さらに、予約どおりにクリニックに行っても、診察時間がずれこんでお客さまとの約束に遅れそうということもありました。最初の頃は、診察を諦めて、お客さまとの予定を優先していました。ところが、それを小室に報告すると「月に一度の貴重なチャンスをふいにしてよいの?私は妊活も応援したい。」と、励まされましたそれからは、事情を話して「代わってもらえませんか」とお願いしたり、余裕を持ったスケジュールを組んだりするようになりました。
不妊治療の大変さが、会社の中で開示されるのは大事なことではないでしょうか。最初は私も、こういった話を周囲が受け止めてくれるか気にした時期もありましたが、オープンにすることで、むしろサポートしてもらえたと思います。20代の時から、不妊治療が必要な体質だと気づけたのも非常にありがたかったです。
 
―産休から復帰後に苦労したことはどんなことですか?
 休業中と仕事の時では、流れている時間の速度や、話すスピードが違うので、講演やコンサルティング、研修などで講師を務めさせていただく際に、今までのようにスムーズに話せず困ったり、話したいエピソードを思い出すのに時間がかかったりすることに最も苦労しました。
 
―妊娠・出産から復職というご自身の経験が、今のお仕事にどのような影響を与えていますか?
仕事への渇望感を持つことができました。最前線でコンサルティングの現場にいた際は、休みが欲しいと思うこともありましたが、長い期間仕事を離れると仕事をしたくて、たまの休みがちょうどよいのだな、と自分のバランスを見つけることが出来ました。
それから、コンサルティングの案件を抱えている最中には手を挙げることを躊躇するような大きいプロジェクトでも、「チャレンジしたい!」と思うことができました。今考えると案件ゼロのまっさらな状態だからこそ、何か自分にしか出来ないことを見つけたいという思いが強かったのだと思います。復帰する度に、新しい部署で新しい仕事にチャレンジしていましたね(笑)。
 
―現在の働き方のメリットと課題について教えてください。
 10年間、休業や時短勤務を経て働いています。柔軟な働き方の選択ができることは、メリットしか感じられません。この働き方でなければ、私は10年前の不妊治療の時に仕事との両立は諦めていたかもしれません。不妊治療で頻繁に休み、うまく授かれたとしたら今度は産休・育休が控えていて、2人目が欲しいとしたら、またその時にも……いつ私はフルタイムで働けるのでしょうか。と、小室に泣きながら話したことがありました。
その際に、「まだ見ぬ想像の赤ちゃんのために自分のキャリアを諦めなくてよい」「数年休みがちな年があっても、数十年働く中でのほんの一部」と激励をもらい、長期でキャリアを考えられるようになりました。
 復職のときに、元の職場に戻れるか、以前と同じようなスキルを発揮できるか悩む方もいらっしゃると思います。私も同様の心配していました。「復帰したら全然違う領域にチャレンジしたっていいし、元に戻りたいなら戻れるようトレーニングしたらいい」ということも小室から言われ、ハッとしました。必ずしも元に戻らなくていい、自分の得意領域が変わって別のかたちで貢献してもいいということに気付きました。そこがターニングポイントになりました。
時間制約がありながらも時間に余裕のある働き方ができるからこそ拾える仕事もあるし、新しいことも始められる。そこに目が向くようになりました。さらに子育ての経験で磨かれるマネジメントスキルを活かしていこう、と思えました。
以前はお客さまをいくつ担当できるかということを重視して働いていましたが、今は最前線で走り続けているスタッフのサポートや、お客さまのためになる商品の開発をメインにしています。それが、一旦休業で仕事を手放したまっさらな状態、かつノウハウはたくさん持っているという自分だからこそできる仕事なのだと考えています。
 
―今後どんな自分になりたいと思っていますか
 子どもが生まれてから、サステナブルな社会になるように貢献したいと思う気持ちが強くなりました。子どもが大きくなる頃、そのまた子どもが大きくなる頃、日本や地球が、持続可能な社会であるために、自分にできることの中で、最も効果的な時間の使い方を心がけていきたいです。

はたママ読者へのメッセージ

―はたママ読者へのメッセージをお願いします。
当社で移住ができる社員がいるのは、お客さまがリモートに慣れてくださっているという面も大きいです。コロナは大変なことですが、在宅勤務をはじめ、働く人にとっての環境は整いつつあるかなと思います。たとえ1日1時間でも、自分の持っているものを社会に還元したいという思いをお持ちなら、一歩踏み出してみてはいかがでしょうか。
それから、これは求人を考えている企業さんに対してですが、時間単位の有給休暇をとれる制度があると、ママたちはありがたいのではないでしょうか。子どもを病院に連れていく、学校で面談があるなどちょっとした用事があるときに使い勝手がいいですね。ぜひそういった柔軟に休みをとれる制度を整えていただけたらと思います。
 

編集後記

4人のお子さんを育てながら、ご自身のキャリアも追求している工藤さん。その笑顔から、公私ともに充実している様子が伝わってきました。
そして、復職後に元に戻ることに固執しなくていいという言葉に、私もハッとしました。キャリアは必ずしも一直線に積み上げるものではなく、自分のライフスタイルと相談しながら方向転換もありと考えると、気持ちが楽になりますね。

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ABOUT US
ライター・Y田
フリーライター兼フォトグラファー。仕事と子育てを両立したいママをサポートするNPO法人との縁で、働き方をテーマとする記事を執筆するように。取材を通していろいろな人や企業に出会うことが楽しみ。プライベートでは、中学生の女子の母。