仕事に全力を傾けられない時もある。 一人ひとりの背景を思いやれる「カルチャー」を

スモールビジネス向けに、バックオフィス業務を効率化するためのクラウドサービスを展開している「freee株式会社」。かわいらしいツバメのロゴでおなじみですね。今回は、同社のChief Culture Officer(CCO)であり、一児のママである辻本さんにインタビュー。同社の働きやすいカルチャーづくりやご自身の働き方について話をお聞きしました。

辻本祐佳さんプロフィール

職業: freee株式会社 CCO
お子さんの年齢: 1歳
居住地: 千葉県
和歌山県出身。東京大学法学部を卒業後、楽天株式会社での法務経験を経て2017年8月freee入社。今後のfreeeカルチャーを再定義するプロジェクト参画をきっかけに、2018年7月から人事総務機能を統括、社内のカルチャー浸透・組織での体現に取り組む。

在宅か出社か、個人の判断が基本

―御社の事業内容を教えてください。
「スモールビジネスを、世界の主役に。」をミッションに掲げ、「だれもが自由に経営できる統合型経営プラットフォーム」の実現を目指しています。「freee会計」や「freee人事労務」などのバックオフィスの生産性向上に寄与するSaaSサービスを開発・提供しています。
 
―現在の在宅勤務の状況はいかがでしょうか。
新型コロナの感染拡大の状況に応じて、出社と在宅の比率を柔軟に変えています。ただ、やはりミッション達成に向けて動いていくためには、顔を合わせて議論する機会の重要性を改めて感じています。ですので、コロナの感染拡大が落ち着いたら出社を推奨するのを基本方針としています。2022年の8月にオフィスを移転させる予定で、スタッフが全員入れるよう事務所スペースを拡張するとともに、出社を強制するのではなく、自発的に出社したくなるようなオフィスを目指して準備しています。一人ひとりがfreeeは何を目指しているのか、そのために何が必要なのかを考えて自律的に動いてほしいというのが、当社の根本な考え方だからです。
 
―働きやすい環境への取り組み、それに対する社内での反応について教えてください。
基本的には制度を手厚く用意するというよりは、空気や雰囲気、つまり「カルチャー」をつくることに重きを置いています。現状、育休を取る男性社員が多いのも、そうした結果です。制度を活用することが普通のこととして受け入れられているのが、freeeの特長だと考えています。とはいえ働きやすさにつながるための取り組みはいくつか行っていて、具体的には以下のようなことをしています。
 

「家族にまつわるエトセトラ」

結婚、出産、介護など人生の転機が訪れたときの手続き方法や会社への相談方法を、わかりやすく解説したマニュアルを社員に公開。

「家族のことで会社への申請などが必要になったときに、『家族にまつわるエトセトラ』を見たら、やるべきことがすぐに分かり、あっという間に解決して助かった」といった社員からの声がありました。

「つばめっこクラブ」

子育て中のメンバーのためのコミュニティ。社内SNSではお下がりのやり取りや、子育ての悩み相談の話題が飛び交っています。

ベビーシッター・家事代行の利用料の半額補助、育休から復帰する際、認可外保育園と認証保育園の差額分をfreeeが補助するなどの制度もあります。

活発なコミュニケーションとチームビルディング

従業員は、20代後半から30代前半が多く、結婚や出産といった大きな出来事が多く起こります。そこでfreeeでは、従業員同士がまずお互いを深く知ることを推奨しています。各自の事情をすみやかに理解できることで仕事がスムーズに進むと考えているからです。その一例がチームビルディング。メンバーのバックグラウンドや個人が出せる価値などを共有することで、メンバー間の信頼を築いています。

「働き方freee」

働き方(働く日数、時間数、時間帯など)をカスタマイズできる制度を導入しています。
従業員の事情に応じた様々な働き方にも柔軟に対応しています。

 
―いろんな制度が整っていますね。逆に課題はありますか?
プライベートの事情によっては、全力を出せない時期もあります。それは、子育てだけではなく、独身の人だってそういう事態に陥ることもあるでしょう。個人の状況と会社としてのミッション達成のバランスをいかにとるかという点について、もっといい方法があるのではと思っているところです。

妊娠中にCCOに就任。最適解を探す日々

―辻本さんのお仕事であるChief Culture Officer(CCO)について教えてください。
freeeは、企業文化の醸成というのが、事業の成果を出し、ミッション達成につなげていくために大事なファクターであると考えています。そのカルチャーに対して影響を与える要素が、たとえば人事制度やオフィス環境、社内のコミュニケーション設計です。それらの要素を上手に組み合わせて、freeeのミッションを達成できるよう企業文化を進化させることに責任を持つ人ですね。
 
―第一子を妊娠中の2020年7月にCCO就任されたそうですね。重圧はありませんでしたか?
もう、どうしようかなと思っていました。最初に2020年2月にCCO就任の打診があり、「やります」と回答しました。その後3月にコロナの影響で全社的にリモートワークに移行し、妊娠が分かったのが4月です。
リモートワークの影響で、自分が見ているチームのマネジメントにすごく苦労し始め、どうしようとなったタイミングで妊娠もわかりました。足場も固まっていないのにCCOなんて本当にできるだろうかと思いました。実際に、「あの話はなかったことにしてほしい」ということも伝えました。ですが、代表から「初めからできないと考えず、やって欲しい」と言われたこともあり、お受けしました。
 
―産休育休はどのくらい取られましたか?
半年間くらいです。一般的には早い復帰かもしれませんね。当時は、足元のチームのこともできていないのに、うかうか休んでいてはいられないと自分で思っていました。
 
―早く仕事を再開したいという思いがあったのでしょうか?
そこは難しいところです。今だったら1年間休むと思います。毎日、毎月どんどん成長してできることが増えていく0歳の子どもとの時間をもっと堪能したかったなという気持ちもあるからです。
復帰してすぐは体調も戻り切っていなくて、無理もしていました。だからといって、半年で復帰しなければよかったと後悔しているわけではありません。子どもも保育園で楽しんでいるようですし、私自身も先ほど話したオフィスの移転というやりがいのある仕事ができて楽しんでいます。


―今はどのような働き方をされているのでしょう?
出社する日は、9時に会社に着いて仕事をして16時半に会社を出ます。子どもを寝かしつけた後、家で21時ぐらいから仕事を再開することもありますし、そのまま寝てしまうこともあります。在宅のときは、8時に始業し17時半まで仕事をして保育園に迎えにいきます。最近は、オフィス移転に関連する業務はどうしても オフラインでやらなくてはいけないことも多いので、出社と在宅の比率は4:1くらいですね。2022年1月21日取材当時)
 
―復職前と後で変わったことはありますか?
使える時間が自由でなくなったという点では大変ですね。以前は昼間に会議が詰まっていても、夜に事務作業をやることで回せていましたが、子どもがいると夜間の時間を取るのが難しい。ただ、これは本来子どもがいる人だけの問題ではないと思います。みんな、個人のやりたいこと、趣味、家族や友人と過ごす時間をきちんと取れるようになっているべきで、際限なく仕事に時間を割けるわけではない。それを前提とした組織づくり、社会にしていかないといけないと感じました。とはいえ、今はまずそういった世の中の時間の流れと自分の状況をどう合わせていけばいいのか、日々模索しているところです。

はたママ読者へのメッセージ

―最後に、はたママprojectの読者へメッセージをお願いします。
我が家の場合、忙しさという点では私と夫も同じぐらいで、ママだからやっているということは授乳以外ほとんどありません。家庭に関する運営責任は、夫と妻は同等にあると考えています。
自分が出産して意識が変わったことは、会社で一緒に働いている人たちにも家庭の時間があって、見えないところでやりくりしているかもしれないということに目を向けられるようになったことかもしれません。その見えない形での調整を担っていたのが、これまでは主に女性の方だったのだと思います。妻の方が時間の融通をつけやすいから家のことをやっているのか、家のことをやっているから時間の都合をつけやすいようにせざるを得ないのか、鶏と卵みたいな話ですが。それもあって、働くママに家庭と仕事の両立という話が取り上げられ、男性には両立の話があまり出ないという現状になっているのではないでしょうか。
先に言ったように、子育てに限らずプライベートの事情によっては、全力を出せない時期もあります。みんながお互いの事情を尊重し合いながら、融通し合うのが当然という社会になっていけばいいなと思います。 

編集後記

こちらの質問に、逡巡しながら言葉を選びながら答えてくださった辻本さん。何事にも真摯に向き合う人柄が見て取れました。
カルチャーの醸成というのは、すぐには結果が見えないかもしれません。けれど、長期的な視野での取り組みに重きを置く、freee株式会社の姿勢に共感しました。

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ABOUT US
ライター・Y田
フリーライター兼フォトグラファー。仕事と子育てを両立したいママをサポートするNPO法人との縁で、働き方をテーマとする記事を執筆するように。取材を通していろいろな人や企業に出会うことが楽しみ。プライベートでは、中学生の女子の母。