配偶者の扶養内で働いている方にとって気になる「扶養の壁」。税金や社会保険料の負担が生じる年収の上限を指す言葉で、「年収の壁」とも呼ばれます。「壁を超えると手取りが減って損になる」と感じて、働く時間を控える方も少なくありません。 扶養の壁にはいくつか種類があり、2025年度の税制改正で数字が大きく変わりました。
今回は、壁の違いや今後の制度の動向を解説し、自身にベストな働き方を考えるポイントをお伝えします。
1.扶養の壁の全体像

扶養の壁の全体像
扶養の壁は、おもに「社会保険の壁」と「税金の壁」の2つがあります。「社会保険の壁」を超えると、配偶者の扶養から外れて社会保険料の支払いが生じます。「税金の壁」は自身の税金に加えて、扶養している配偶者の「控除」にも影響します。「控除」とは、収入から一定額を差し引いて課税される所得を減らし、税負担を軽くする仕組みです。
主な壁は以下になります。
1-1. 社会保険の壁(106万円・130万円)
◆106万円の壁
パートやアルバイトなど短時間勤務の方が、従業員51人以上の企業で、次の条件をすべて満たすと、社会保険(厚生年金・健康保険)への加入が義務となり、保険料の負担が生じます。
- 週の勤務が20時間以上
- 給与が月額8万8000円以上
- 2カ月を超えて働く予定がある
- 学生ではない
月給を年換算して「106万円の壁」と呼ばれます。壁を越えると給与から保険料が天引きされ、手取りは年間で約15万円減ります。ただし、厚生年金に加入すると将来もらえる年金が増えるため、必ずしも損とは限りません。
勤務時間は労働契約で決めた所定労働時間で判断し、臨時の残業は含みません。また、給与には残業代や賞与、交通費は含みません。 なお、国は106万円という年収要件を、26年10月めどに撤廃する方針です。企業の規模要件も段階的になくし、より多くの方が社会保険に加入できるようにする考えです。
◆130万円の壁
勤務先の規模や自身の働き方によって、社会保険の加入義務がない方は130万円までは扶養にとどまることができます。しかし130万円を超えると扶養から外れて、自身で国民年金や国民健康保険の保険料を払うことになります。社会保険料は企業と折半ですが、国民年金と国保は全額自己負担のため、手取りは年間で30万円近く減ってしまいます。
負担は社会保険より重く、将来の年金額も変わらないため、この壁を超えるデメリットが一番大きいと言えます。
106万円の壁と違い、130万円には交通費や賞与、残業代も含まれます。このうち残業代は26年4月から原則含めない扱いに変わります。(3-2参照)
(出典:厚生労働省「社会保険の加入対象の拡大について」 社会保険の加入対象の拡大について|厚生労働省)
1-2. 税金の壁(110万円・150万円・160万円)
もう一つの壁は税金です。ここでは、自身の税金と配偶者の控除への影響を分けて考えます。壁の水準は、25年度の税制改正で次のように変わりました。所得税は25年から、住民税は26年度(25年の収入分)から適用されます。
◆自身の税金
・110万円の壁(住民税)
給与収入から差し引く「給与所得控除」が65万円となり、住民税が非課税となる年収は「100万円」から「110万円」に上がりました。ただし、非課税基準は地域によって110万円以下の場合もあるため、詳しくはお住まいの市町村にご確認ください。
・160万円の壁(所得税)
所得税がかかる「103万円の壁」は「160万円の壁」へと大幅に引き上げられました。「給与所得控除」の65万円に加え、年収200万円以下の方の「基礎控除」が95万円となり、合わせて160万円までなら課税されません。所得税は壁を少し超えても、超えた分に5%がかかるだけなので、負担はそれほど大きくありません。
◆控除の壁
・160万円の壁(配偶者控除/配偶者特別控除)
配偶者を扶養する方は、夫婦の所得に応じて、所得税や住民税の「配偶者控除」または「配偶者特別控除」が受けられます。扶養する方の年収は1195万円以下に限ります。
例えば、妻を扶養する夫の年収が1095万円以下なら、妻の年収が123万円までは所得税の「配偶者控除」が満額(38万円)受けられ、123万円を超えても160万円までは「配偶者特別控除」として同額が維持されます。160万円を超えると控除額は徐々に減り、約201万円を超えると控除はなくなります。
住民税も同様の仕組みですが、控除額(満額は33万円)などが若干異なります。
・150万円の壁(特定親族特別控除)
大学生年代(19歳以上23歳未満)を扶養する方のために「特定親族特別控除」が新設されました。これまでは子どもの年収が103万円を超えると「扶養控除」が受けられませんでしたが、25年からは150万円まで働いても、親は所得税で63万円、住民税で45万円の控除を受けられます。150万円を超えると控除額が徐々に減り、188万円を超えると控除はなくなります。扶養する方の年収に制限はありません。 (出典:国税庁「令和7年度税制改正による所得税の基礎控除の見直し等について」 https://www.nta.go.jp/users/gensen/2025kiso/index.htm )
1-3. 企業独自の扶養手当
このほか、企業が独自に支給する「扶養手当」も扶養の壁として考える必要があります。扶養する配偶者や子どもがいる場合に月額数万円が一般的です。配偶者や子の収入に制限がある場合が多く、103万円以下など過去の税法上の扶養基準のまま見直されていないケースもあります。
企業によってルールが異なるため、勤務先の支給要件を確認しておきましょう。
2.壁を超えると手取りや家計はどう変わる?妻の年収別シミュレーション
各種の壁を超えたときに手取りや家計がどう変わるか、妻の年収別にいくつかの例でシミュレーションをしてみます。
■前提条件
・夫 30歳 会社員 給与収入のみ 年収500万円
扶養手当:年間12万円(配偶者の年収130万円未満)
・妻 30歳 パートタイム 給与収入のみ
2-1. 年収105万円(扶養内で働くケース)
妻の手取り:約104万円
夫の手取り:約397万円
扶養手当:12万円
世帯の手取り:約513万円
妻は雇用保険料のみの負担で、収入のほとんどが手取りになります。夫は所得税や住民税の配偶者控除により、妻を扶養しない場合よりおよそ6万円手取りが増えました。
2-2. 年収110万円(社会保険に入るケース)
妻の手取り:約94万円
夫の手取り:約397万円
扶養手当:12万円
世帯の手取り:約503万円
妻が106万円の壁を越えて社会保険に加入したケースです。年間約15万円の保険料負担が生じ、扶養内で働いていた3-1のケースと比べて、手取りが逆転してしまいました。この場合、124万円以上を目安に稼げば手取りが回復します。
2-3. 年収140万円(扶養を外れるケース)
妻の手取り:約106万円
夫の手取り:約397万円
扶養手当:なし
世帯の手取り:約503万円
この例は妻が130万円の壁を超えて扶養を外れ、自身で国民年金や国保(計約30万円)を払うケースです。扶養手当がなくなることも影響し、世帯の手取りも大幅に減ってしまいました。この時点で勤務先の社会保険に入れる場合の手取りは約117万円になります。
妻が年収129万円でぎりぎり扶養にとどまっていれば手取りは約126万円です。条件によって多少変動しますが、手取りの逆転現象を解消するには、国民年金と国保を払う場合は165万円以上、社会保険の場合は151万円以上を目指す必要があります。
2-4. 年収180万円(所得税の壁を超えるケース)
妻の手取り:約148万円
夫の手取り:約395万円
扶養手当:なし
世帯の手取り:約543万円
妻が160万円の壁を超えたので、夫の「配偶者特別控除」が減り、満額受けていた時と比べて手取りがおよそ2万円減っています。ただし、妻の年収アップによる手取り増加の方が大きいので、控除の減少を意識しすぎなくてもよいでしょう。
2-5. 年収210万円(配偶者の控除がないケース)
妻の手取り:約170万円
夫の手取り:約391万円
扶養手当:なし
世帯の手取り:約561万円
妻の年収が201万円を超えたため、夫の「配偶者特別控除」はなくなりました。年収の壁を気にせず、夫婦それぞれが収入を伸ばしていくパターンです。
3.今後の壁はどうなる?
人手不足を背景に、国は扶養の壁を意識した働き控えを減らそうと、制度の見直しを進めています。今後の動きを簡単にまとめます。
3-1. 「106万円の壁」は「週20時間の壁」に
前述のとおり、社会保険の106万円の壁は、26年10月をめどに撤廃される見込みです。週20時間以上という労働時間の条件は残るため、今後は新たに「週20時間の壁」として意識されそうです。
3-2. 「130万円の壁」は残業代含まない扱いに
扶養の認定基準である130万円は、これまで残業代も含む過去の収入実績から判定してきました。急な残業で給与が増えて扶養から外れるのを心配し、特に年末に働くのを控える要因にもなっていました。
26年4月からは、給与収入のみの方は、労働契約で定めた賃金から年収を判定し、残業代は原則含めないルールに変わります。これにより収入の見通しが立てやすくなり、繁忙期も安心して働けそうです。
(出典:厚生労働省「労働契約内容による年間収入が基準額未満である場合の被扶養者の認定における年間収入の取扱いについて」 T251006S0060.pdf ) (出典:厚生労働省「労働契約内容による年間収入が基準額未満である場合の被扶養者の認定 における年間収入の取扱いに係るQ&Aについて」 T251006S0070.pdf )
3-3. 「160万円の壁」はさらに引き上げに
2025年に適用された所得税の160万円の壁は、物価上昇を反映させるために、国会でさらに178万円への引き上げが可決されました。26年度の税制改正で、壁の水準が再び見直される可能性もあります。
(出典:厚生労働省「年金の壁」への対応 「年収の壁」への対応|厚生労働省)
4.自身にあった働き方は?判断のポイント

ここまで壁の種類や仕組みを見てきました。手取り面では、社会保険の106万円または130万円の壁を超えるかどうかの違いは大きい一方で、税金は壁を超えても負担が徐々に増える設計のため、過度に心配する必要はなさそうです。その上で、自身に合った働き方を決めるポイントを考えます。
4-1. 子どもの年齢や働ける時間
育児をしている方は、働く時間が増えると生活に無理が出やすくなります。配偶者の理解によっても働ける時間は変わるでしょう。1日に何時間、週に何日なら無理なく働けるかを考えて、時給の高い仕事を選んで、扶養の範囲内で手取りを最大限にするのも一つの方法です。資格や専門性を持つことも役立ちます。
4-2. 将来の年金
扶養内で働く場合、将来の年金は国民年金のみですが、社会保険に加入すると厚生年金が上乗せされ、老後の安心につながります。国の試算では、月収8万8000円で厚生年金に1年間加入すると年額5300円、10年間で同5万3300円、20年間で同10万6700円の年金が終身で受け取れます。保険料負担は小さくありませんが、年収が増えれば将来の年金額も増えると前向きに考えられます。
4-3. 休業時の保障
社会保険に加入すると、病気やけがで休んだときに「傷病手当金」を受け取れます。出産の場合は、産前42日から産後56日まで休業に「出産手当金」が支給されます。支給額はいずれも直近1年間の給与(標準報酬月額)の平均の3分の2が目安です。
4-4. キャリアへの考え方
扶養の壁にとらわれず、自己実現や社会への貢献のために、キャリアアップに全力を注ぐ選択もあります。フルタイムに近い働き方を選ぶと、責任あるポジションを任されやすく、収入アップのスピードも速くなるかもしれません。扶養内で仕事を探すより、選択肢も広がります。
5.まとめ
家庭の事情は人それぞれ違いで、働き方の選択に正解はありません。子どもが小さいうちは家庭を優先し、手が離れたら仕事を増やすなど、ライフステージによっても選択は変わるでしょう。扶養の壁を理解した上で、自身の価値観を大切に、後悔のない働き方を柔軟に選べるとよいですね。












