家庭とキャリア、そのどちらも支える日清食品グループのデジタル教育と風土づくり~日清食品ホールディングス デジタル化推進室 課長 小西博子さん~

生成AIの普及や働き方の多様化により、企業における「デジタル教育」のあり方が大きく変化しています。日清食品グループでは、2024年にデジタルリテラシー向上プロジェクト「NISSIN DIGITAL ACADEMY(通称デジアカ)」を立ち上げ、社員一人ひとりが自分の手でデジタルを使いこなすための環境づくりを進めています。

この取り組みの中心にいるのが、文系出身のIT未経験からデジタル分野へキャリアチェンジし、現在はデジタル化推進室でプロジェクトを牽引する小西博子さん。
今回は、小西さんが語るキャリアの歩み、デジアカ立ち上げの裏側、育児と仕事の両立、リーダーとして大切にしている姿勢、そして未来への視点を伺いました。

小西 博子さんのプロフィール

職業:会社員(デジタル人材教育のプロジェクトリーダー)
お子さんの年齢:8歳・2歳
居住地:東京都
勤務形態:出社と在宅を組み合わせたハイブリッド勤務

現在に至るまでのキャリアの歩みについて

2005年に日清食品へ入社しました。最初は冷凍食品のマーケティング部で、その後2008年から宣伝部でブランドのプロモーションに携わっていました。2014年に日清食品ホールディングスのITプラットフォームへ異動になり、Teamsの全社推進やグループ向けポータル刷新プロジェクトなどを担当しました。現在はデジタル化推進室で「NISSIN DIGITAL ACADEMY」の立ち上げを担当し、国内グループ社員のデジタルリテラシー向上に取り組んでいます。

文系出身のIT未経験からデジタル分野に挑戦された際、最初にぶつかった壁や戸惑いはありましたか?

10年前、異動によってITプラットフォームに配属されたのですが、「転職したのかな」と感じるほど、飛び交う言語が違いました。工数、WBS…聞き慣れない単語ばかりで、ひとつひとつ検索しながら確認して進めていました。最初はカルチャーショックでしたね。

ただ、分からないことを素直に聞ける雰囲気があったので、不安はすぐに解消されました。「分からなくて当然」という前提で受け止めてくれる環境だったので、会話のキャッチボールをしながら自然と学べました。

異動直後に、当時の上司へ『このプラットフォームで何をしていきたいか』というプレゼンをする機会があったんです。まだ事業部理解の解像度が高くなかった分、プレゼンをどう楽しいものにするかに振り切ったものにしてみたところ、「社内外へ発信していく力があなたの武器になる」と言っていただきました。それが自信になり、広報的な視点でITの施策を社内に伝える役割を任せてもらえるようになりました。

NISSIN DIGITAL ACADEMYについて

2019年からDXの取り組みが始まりましたが、デジタル教育については継続的ではありませんでした。そこで、2024年4月に全社プロジェクトとして『NISSIN DIGITAL ACADEMY(通称デジアカ)』を立ち上げました。社内向け生成AIチャットを全社展開した翌年のタイミングです。

デジタルを使いこなす力を組織全体で備えていくためには、現場社員が常に学べる状態をつくることが必要です。従業員が中長期的にリスキリングを続けられる環境をつくり、業務改善や組織貢献、企業価値向上につなげることを目指しています。

立ち上げ時、社内からの反応や戸惑いの声はありましたか?

社員の大きな戸惑いは有りませんでした。強制参加にはせず、まずは来たい人が来られる環境を広く用意することを意識しました。デジタルに対する意欲を加速させる原動力になりたかったので、告知では『現場社員にどんなメリットがあるか』を端的に伝えることを大事にしました。

事務局が一方的に押しつけないよう、視覚的でわかりやすく、今の業務に役立つ講座だと感じてもらえる伝え方を常に意識していました。

1年半の間、迅速にPDCAを回し続けるためにチーム内での意思決定はどのように行っていますか?

日清食品グループには『迷ったら突き進め。間違ったらすぐ戻れ。』という「日清10則」があります。デジアカもまさにこの考え方で運営しています。

まずは講座を実施する。そして受講者アンケートを全件可視化し、良い点・改善点をすぐ分析する。四半期(3ヶ月)ごとに講座を見直すというサイクルを繰り返しています。

立ち上げから約1年半で6サイクル回しましたが、その中で20~30講座は改廃し、当社に最適なデジタル教育の形が見えてきました。生成AIの進化は数ヶ月単位で変わるので、講座も常に進化し続ける必要があります。

「日清10則」

手応えを強く感じた瞬間や、デジアカによって「組織が変わってきた」と実感した場面はありますか?

立ち上げからの1年間で47講座・90回開催し、現在の受講者は延べ8,000人を超えています。ほとんどが任意参加なのに、これだけ多くの社員が学びたいと思って集まってくれたことは、何よりの手応えです。

また、デジアカをきっかけに学びを深め、アプリ開発や業務貢献まで実現する社員も多くの組織から生まれています。それは私たちが仕込んだものではなく、社員自身の意欲が形になった結果なので、本当に嬉しい変化でした。

仕事と家庭の両立について

復帰当時、特に負担やプレッシャーを感じた瞬間はどのような場面でしたか?

第二子の育休から復帰したばかりの頃は、0歳児の育児と小1の子の対応が重なり、予想通り過酷でした。心身は比較的タフな方だと言われますが、それでもこれまでのパフォーマンスを維持できず、悔しい気持ちになる場面は何度もありました。

ただ、産休前から管理職試験に挑戦していたこともあり、自分一人で成果を出すのではなく、チームとして成果を出す役割を期待されていることを上司から言われていました。そこで「チームの総合力で成果を出すことを常に意識しよう」と考え方を切り替えました。

ハイブリッド勤務やフレックス制度で、「これは特に助かった」と感じる具体的な場面や工夫はありますか?

もう数えきれないほど助けられています。第一子の育休明け頃から約7年ほど、ハイブリッド勤務やフレックス制度を活用しています。

子どもの急な発熱、病院、行事、家庭の用事……デジアカの運営を続けられたのは、これらの制度があったからで、もし制度がなかったら、管理職を目指すことや第二子の妊娠なども含め、仕事とプライベートの何かしらを諦めざるを得なかったと思います。
夫や母のサポートも大きく、制度と周囲の支えがなければ今のキャリアは築けていません。

リーダーとしての挑戦

挑戦を決める上で特に背中を押してくれた言葉や出来事はありましたか?

育休中は「今年は管理職試験を受けないほうがいいのでは」と何度も迷いました。自分から負荷をかけて周囲に迷惑をかけたくなかったからです。でも上司からは、IT部門の中で、私のような立場——女性であり、育児をしながら働き、かつ非IT部門出身というバックグラウンドを持った人材——がいることの価値を、とても明確に言語化してくれました。

人事の女性管理職の方からも「チャンスがあるならやってみてもいいんじゃない?」とフラットに背中を押していただき、挑戦を決めました。

復帰直後に試験を受けて合格し、多くの社員の方々から温かいメッセージをいただき、身が引き締まる思いでした。

チームメンバーの思考を引き出すために工夫している具体的な場面や方法はありますか?

心理的安全性をとても大事にしています。相手を尊重して、まずは傾聴すること。
一昔前のように強く牽引するだけではなく、いまは個に寄り添うマネジメントが必要だと感じています。

隔週で1on1を行い、必要なときはその都度対話の時間をつくり、本人が何を求めているのかを丁寧に受け止めています。正解を示すのではなく、その人の中にある思考を引き出す。それが結果的にチームのパフォーマンス最大化につながっていますね。

社会的な広がりについて

日清食品ホールディングスはMIRAIαに先行賛同されていますが、どのような取り組みなのでしょうか

日清食品ホールディングスは、一般社団法人Women AI Initiative Japan(WAIJ)1が立ち上げた、AI時代における女性の新たな挑戦を応援する賛同宣言「MIRAIα(ミライア)」に先行賛同しています。

女性のAIリテラシー向上を加速させるため、「生成AIパスポート」の取得支援プログラムの実施に加え、各種イベントの企画・開催にも取り組んでいます。

私自身もメンバーの一員として参画したばかりですが、これから、AIを学びたい・活用したい方や、AIを活用した起業に関心のある女性に向けた活動に携わっていきたいと考えています。

こうした取り組みの中で、女性社員のキャリア形成にどのような変化や手応えを感じていますか?

デジアカでは男女差を全く感じません。むしろ、定常業務が多い職種では生成AIの改善余地が大きく、女性社員が主体的に活用しているケースも多くあります。業務に落とし込む発想力が重要な領域なので、性別は関係ありません。
学びをきっかけに自信をつけている姿を見ると、手応えを強く感じます。

読者へのメッセージ

最後に、これからキャリアや学びに挑戦しようとしている方々に向けて、メッセージやアドバイスをお願いします。

子育てと仕事を両立しながら頑張っている人は、みんな戦友だと思っています。苦しいと楽しいを繰り返しながら進んでいるのは自分だけではありません。今だからこそ得られる喜びも必ずあります。
肩書や役職は後からついてくるものです。まずは、目の前の仕事のKPIをひとつずつ達成しながら、手の届く範囲で挑戦していけば、自然と次の景色が見えてくると思います。

迷ったら、一歩進んでみてください。
私も同じ戦友として、一緒に頑張っていきたいと思っています。

広報・人事担当者様にお聞きしました。日清食品グループはこんな会社

事業内容:
日清食品グループ
1958年に世界初の即席麺「チキンラーメン」、1971年に世界初のカップ麺「カップヌードル」を世に送り出すなど、新たな食の創造を通じて世界の食文化を革新する即席麺のパイオニア企業。即席麺を中心に、チルド食品、冷凍食品、菓子、飲料など、幅広いカテゴリーでトップブランドを育成している。各国の食文化や味の好みに合わせた製品を世界21の国と地域、34工場で生産しており、グローバルブランドとしての強化と各地域でのプレゼンス向上を目指す。近年は、最適化栄養食をはじめとする新規事業にも注力し、マーケティングとイノベーションを駆使して多様な食のソリューションを提供している。

日清食品グループ様の事業の強み・特徴について教えてください。

強み・特徴:

  • 「0→1」を生み出す創造性が企業文化として根付いている
    創業期の「チキンラーメン」や「カップヌードル」に始まり、時代ごとの社会課題に対し「食で解決する」という姿勢が受け継がれています。
    「完全メシ」など、現代の栄養課題に向き合う新規事業もその延長線上にあります。
  • 商品開発からIT領域まで「スピード感のある挑戦」が根付いている
    AI活用を含む新しい技術も、様子見ではなくまず試す文化が強いことが特徴。
    「日清10則」にある「迷ったら突き進め。間違ったらすぐ戻れ。」の価値観が、全社に行動指針として共有されています。
  • 新卒・キャリア入社が混在する多様な組織構造
    キャリア入社比率が半数以上を占めており、理念や文化を浸透させるためのオンボーディング施策(例:「カップヌードルミュージアム 横浜」での理念研修)も積極的に実施しています。

企業として大切にしている価値観やカルチャー(ミッション・ビジョンなど)を教えてください。

フィロソフィー:FUTURE FOOD CREATOR
「新たな食の創造」で世界の課題をスピーディに解決し、人類をもっと健康に、もっとHAPPYにすることを掲げています。

創業者・安藤百福の精神
グループ理念の基となっており、変わることのない創業の価値観です。

  1. 食足世平(食が足りてこそ世の中が平和になる)
  2. 食創為世(世の中のために食を創造する)
  3. 美健賢食(美しく健康な身体は賢い食生活から)
  4. 食為聖職(食の仕事は人々の命を支える聖職である)

挑戦し続けるカルチャー

  • 会社の成長の原動力として 日清10則 が行動指針として浸透。
  • 新規事業、デジタル領域など、様々な側面で挑戦することを重視。
  • 「食文化創造集団」として、常に新しい食の文化を創造し続けることを掲げる。


多様性を尊重し、学び続ける人材を育てる姿勢

  • スローガン「DIGITALIZE YOUR ARMS(デジタルを武装せよ)」
  • 2024年度スタート「NISSIN DIGITAL ACADEMY」
  • 育児・働き方制度を柔軟に整え、多様な社員が能力を発揮できる環境づくりに注力。

社員支援制度の中でも、特に男性育休の取得率を上げるために取り入れたことを教えてください。

  1. 全社員に向けた制度周知
    育児を迎えた従業員が、変化の期間を不安なく過ごし、スムーズに職場復帰して活躍できるように、育児休業制度や社内制度に関して詳しくまとめた冊子「パパママガイドブック」を全社員に向けて配布しています。制度の対象者や、その上司だけでなく、周囲も含めて制度を理解してもらう意図で実施しています。
  2. 上司から子どもが生まれた男性社員へ 出産お祝いグッズを手渡す取り組み
    上司から、「チキンラーメン」のキャラクターである「ひよこちゃん」をモチーフにしたお祝いグッズを渡す取り組みを実施しています。
    これにより会話のきっかけをつくり、上司が育児休業取得をサポートする姿勢を示せるようにしています。
  3. 育児休業の取得意向を申請できる社内アプリ用意
    育児休業を取得しやすい環境を整えることを目的に、取得意向を申請できる社内アプリを用意しています。パートナーの妊娠がわかり、体調が落ち着いたタイミングでの申請を推奨しています。早めに取得意向を伝えてもらうことで、業務引継ぎがスムーズになっています。

育児中の社員に向けた制度を教えてください。

日清食品グループでは、育児中の社員が安心して働けるよう、社員の声をもとに環境整備を進めています。
その一例が「搾乳室として利用できる休憩室」の新設です。

もともと同社は男性社員比率が高く、搾乳室のニーズが顕在化しにくい状況がありました。しかし、近年は女性社員や働くママが増え、育児と仕事を両立するうえで「搾乳できる専用スペースがほしい」という声が寄せられるようになりました。
その声を受け、従来「ナップルーム」として使われていた休憩室を改修し、安心して搾乳や休憩ができる環境として整備しました。
社員の声が環境や制度をつくる、日清食品グループらしい取り組みとして実現したものです。

ほかにも以下のような制度を設けています。

  • eラーニングや外部研修などによる能力開発支援
  • 育児休業から早期復職するための補助施策、復職前面談
  • 非常時の保育料補助 (残業・休日出勤、病後児保育などで発生した保育料の補助)
  • ベビーシッター利用料の補助
  • 育児短時間勤務 (小学3年生までの子どもを持つ社員が対象)
  • こども休暇 (子育てを目的とした男性従業員向け休暇)
  • 失効年次有給休暇の育児利用
  • 金融知識学習プログラムの提供 (出産前後の社員が対象)
  • 搾乳室の機能を備えた休憩室の設置

編集後記

小西さんのお話には、「環境が人を育てる」という言葉の重みがありました。
制度や仕組みだけではなく、目の前の社員一人ひとりの可能性を信じ、背中を押し続ける——そんな日清食品グループの風土が、挑戦する人を自然と増やしているのだと感じます。

働き方も学び方も、人によって違っていい。
小西さんのお話は、その当たり前をあらためて肯定してくれるものでした。
肩の力を抜きつつ、自分らしく進んでいける仲間が増えたら嬉しいですね。

関連リンク
日清食品グループ
https://www.nissin.com/jp/company/

  1. Women AI Initiative Japan 公式HP:https://women-ai-initiative.jp/ ↩︎

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