株式会社SMART STORAGE代表・LSC Academy校長として活躍される鈴木尚子さん。
産前はアパレル業界で活躍し、産後は専業主婦となったものの、思い通りにいかない毎日に苦しみ、心身ともに限界を感じる時期を経験されました。
そうした苦難を乗り越え、今では多くの女性たちを支える起業家として第一線で活躍されています。
片付けと心のつながり、そして「働くママ」へのエール――その道のりと想いを伺いました。
- 株式会社SMART STORAGE
「片付け=心の整理」を核に、家庭や職場から人と組織のウェルビーイングを底上げするコンサルティングを展開している。個人宅訪問や企業研修では収納テクニックにとどまらず、思考・習慣・人間関係まで統合的に整える“逆算型片付け”を実践。 - LSCアカデミー
子育て・夫婦関係・マインドセット・起業支援などを横断的に学べる講座を提供。開設から数年で受講者は延べ10,000名を突破した。
目次
思い通りにいかない産後の生活
産後は専業主婦として過ごされていたとのことですが、当時感じていたことを教えてください。
出産後、私は再びアパレル業界の仕事に復帰するつもりでいました。ところが、保育園がなかなか見つからなかったり、通えても職場との距離が遠く、片道3時間近くかかってしまうなど、現実的に両立が難しい状況に直面しました。
さらに、夫や母からも「今は家にいた方がいいのでは」と復職を止められたこともあり、育児に専念する決断をしました。
もともと楽しみにしていた子育てでしたが、実際は思い通りにいかないことの連続。育てにくいタイプの子どもとの日々に、自分の無力さを感じるようになりました。さらに、片付けがうまくできずに家はどんどん散らかり、家事も思うように進まず、普通の人ならできるはずのことが自分にはできない……そんな現実に打ちのめされ、次第に自信を失っていきました。
さらに妊娠8ヶ月からは股関節が動かなくなり、歩くことも座ることもつらい身体的な不調も重なって、本当に心も体も限界でした。「自分はダメな人間なんじゃないか」と強く感じるようになり、どん底だったと思います。
とても辛い時期だったと思いますが、その時期をどのように乗り越えられましたか?
ある日、夫との大喧嘩をきっかけに「このまま不機嫌な毎日を続けていくのか」と自分自身に問いかけた瞬間がありました。そのとき、不機嫌な生活を選んでいるのは「自分自身」だと気づいたのです。そこから一念発起して、荒れ果てた部屋を一つ一つ片付けはじめました。気がつけば、その時間が自分の心を整える時間となり、数年片付けを続けることで少しずつ自分自身と向き合い、取り戻す感覚を得てきました。
振り返れば、人生でそこまで自分をダメだと感じたことはありませんでした。でも、その経験があったからこそ、今の自分につながる大きな変化のきっかけになったと思っています。大変な出来事や病気、うつのような時期も、今思えばすべてが意味のあるもので、人生の別の道を開いてくれたと心から感じています。
苦しかった時も、未来はもっと幸せになりたい、もっと豊かになりたいという思いがあったからこそ、片付けという行動に一歩踏み出すことができました。何か行動を起こすこと――それが結果的に今の仕事や人生につながったのだと実感しています。
「片付けは心の整理」 モノを手放し、本当の自分に出会う
その時の経験が整理収納のプロへつながっているのですね。
片付けを始めた当初は、今のように情報が豊富な時代ではなく、何をどうすればいいのか手探りの状態でした。そんな中で出会ったのが、たった一冊の「スキマ収納」の本でした。その内容に感化され、文字通りスキマというスキマを埋め尽くすような収納方法を試していました。
けれども、あるとき、もうスキマがどこにもなくなってしまったんです。そして、そのとき手にしていたモノを眺めながら、「これは本当に必要なんだろうか?」と、自分自身に問いかけるようになりました。
そこから、私は“モノを収める”のではなく、“モノを手放す”という方向へ舵を切りました。
モノと丁寧に向き合っていくうちに、自分の見栄や虚栄心に気づくことになりました。アパレル業界にいたという背景もあってか、私にとって服は“鎧”のような存在でした。弱さや不安を隠すために、自分を取り繕うようにして、たくさんのモノで心を覆っていたのだと気づいたんです。
この体験を通じて思うのは、もしかすると「モノを手放せない」「片付けられない」という状態は、心の中の混乱や葛藤とリンクしているのではないか、と感じました。私だけでなく、誰にでもそんな一面があるのではないかと感じたことがきっかけでプロになりました。
これまで多くの方々に片付けのアドバイスをされてきた中で、片付けが心や生活に与える影響について、どのように感じていますか?
これまで、1万人近い方々に片付けのアドバイスをさせていただいたり、女性たちのお悩みに寄り添うセミナーを開催したりと、多くのお客様と向き合ってきました。
その中で感じるのは、「片付けられていない状態」は単なる生活の乱れではなく、放置すれば心や体の不調へとつながっていく可能性があるということです。
一見、日々をなんとか回しているように見えても、気づけば心が疲弊し、鬱のような状態に陥ったり、原因不明の体調不良が続いたり。また、子どもが不登校になったり、起立性調節障害のような症状が現れることもあります。そうしたご家庭を、これまで幾度となく目にしてきました。
私自身も、片付けを始めたことで、まるで霧が晴れていくかのように、家の中だけでなく心の中の曇りも少しずつ晴れていきました。
片付けは、単なる整理整頓ではなく、心と人生を整えるための第一歩なのだと、今は確信しています。
忙しさの中で、人の手を借りることを学んだ
起業後は育児や家事との両立も大変だったと思います。どのように乗り越えてこられたのでしょうか?
子どもが1歳半になる頃から外に出て仕事を始めましたが、当時は保育園に空きがなく預けられなかったため、一時預かりを利用していました。
ところが、その一時預かりの施設まで行くのもひと苦労。車で行けば渋滞に巻き込まれ、歩けば10分15分の距離が1時間もかかることもありました。仕方なく自転車を購入し、仕事で使う大きなスーツケースをくくりつけて、急な坂道を登りながら子どもを連れて通った日々は、今では思い出深い修行のような日々でした。
仕事もとても忙しく、帰宅後「お腹が空いた」という子供に、まるでコース料理のように一つ一つ手渡しでご飯を出していました。幼稚園のお迎えをママ友に手伝ってもらったり、義理の母に週に2回ご飯を作ってもらうなど、たくさんの人に助けてもらいました。
当時は育児も仕事も「全部自分でやらなきゃ」と思い込んでいたのですが、できない部分は手伝ってもらい、人に頼ることの大切さを学びました。今のお母さんたちにも「今が一番大変な時期。だからこそ人に頼ってほしい」と伝えたいです。

オンラインスクール「LSCアカデミー」とその先の挑戦
ご自身の経験を活かし、オンラインスクール「LSCアカデミー」を運営しているとのことですが、どのようなスクールなのでしょうか。
起業してからの15年間、片付けの現場を通じて、たくさんの女性たちの悩みに耳を傾けてきました。
最初は「片付け」だったはずが、気づけばファッションや親子関係、夫婦関係、心のあり方、潜在意識、食事、空間づくりなど、人生そのものに関わるご相談が寄せられるようになりました。お一人おひとりの暮らしと真剣に向き合い、実践を重ねていくうちに、自然とそれらを“プロとして伝えられるレベル”に育てていただいたのだと思っています。
こうして私自身が培ってきた知識と経験を、まるごと一貫して女性たちに届けられる場として立ち上げたのが、LSCアカデミーです。
LSCとは「ライフスタイル・クリエイターズ・アカデミー」。
“自分の人生は、自分で創造できる”という信念のもと、女性たちが自分らしく輝きながら人生をデザインしていくための学び舎です。
これまで多くの卒業生が、驚くほどの変化を遂げ、まったく新しい人生を手にされています。片付けの先にある“本当の自分”と出会う旅を、これからもサポートしていきたいと願っています。
今後の挑戦や新たに取り組みたいことはありますか?
「見えるもの」(環境や食事、人間関係など)を整えるだけでは人生は根本から変わりません。「エネルギー」「思考」「感情」といった“目には見えない世界”もバランスよく整えることが、人生を本質的に好転させ、次のステージへと導く鍵だと考えています。
現在は、人生を本質からステージアップさせていくための新しいコンテンツを構築中です。目に見える現実と、目に見えない内面の世界を統合していく、新しい時代のライフスタイルの提案を形にしていきたいと考えています。

読者へのメッセージ
最後に子育てと仕事の両立に悩む方々へ、メッセージをお願いします。
子育てをしていると、保育園に連れて行くだけで泣かれてしまったり、「ママのお迎えが一番遅い」と言われてまた泣かれてしまったり…。子どもが熱を出してもそばにいてあげられない日があると、「母親として無力だな」「こんな働き方でいいのだろうか」と、自分を責める気持ちになることが、誰にでもあるのではないでしょうか。私自身も、何度もそう感じてきました。
それでも今、子どもたちが成長した今だからこそ、はっきりと言えることがあります。
それは、私が仕事を心から楽しみ、自分の人生を主体的に生きる姿を見せてこられたからこそ、子どもたちもまた「働くって楽しいことなんだ」「人生は自分でつくっていけるんだ」と感じてくれているということです。
子育てと仕事の両立は、簡単なことではありません。悩むことも、苦しむこともたくさんあります。でも、どうか諦めないでほしい。
仕事は、確実に自分を成長させてくれます。そして子育ても、想像以上に自分を育ててくれます。その両方に真剣に向き合い、継続してきたからこそ、私は“人としての豊かさ”を実感する今にたどり着くことができました。
あなたが今日向き合っているその悩みも、きっと未来の自分にとってのギフトになる――そう信じて欲しいです!
編集後記

鈴木尚子さんのインタビューを通して、人生の転機はいつも「思い通りにいかない瞬間」から始まるのかもしれないと感じました。
できない自分を責めるのではなく、小さな一歩を積み重ねていく――そんな鈴木さんの姿勢は、仕事や子育てに悩むすべての人の力になるはずです。
関連リンク
株式会社SMART STORAGE
https://smartstorage.jp/
家族構成:夫・息子(22歳)・娘(18歳)
居住地:神奈川県横浜市