前回、育休取得された佐野さんを取材させていただいた「株式会社CHINTAI」。今回は、育児・介護休業法の改正をきっかけに生まれた「ファミリーエクスペリエンス制度」について、制度設計を担当した福崎さんと、制度を実際に活用した杉山さんに、制度を作ろうと思ったきっかけや制度に込めた想い、実際に利用した際のリアルなエピソードについてお伺いしました。
お名前:杉山 慎二
職業・部署:広報室
目次
制度設計を担当した方の紹介
福崎さんの現在の役職や担当業務について教えてください。
役職:なし(一般職)
担当業務:人事
これまで担当した業務:
- 採用(新卒/中途/障がい者)
- 研修・評価制度の運用
- 福利厚生制度企画
- 労務(勤怠/育児・介護休業/健康管理/働き方)
- 風土醸成
今期担当している業務:
- 評価制度の運用
- 労務(勤怠/育児・介護休業/健康管理/働き方)

制度の作成のきっかけと育児休業
「ファミリーエクスペリエンス 制度」はどのような制度ですか?
福崎さん:この制度は、2022年5月からスタートしました。男性の育児休業取得を推進することを目的とした制度です。制度の内容としては、男性社員が一定期間以上の育休を取得した場合、その取得期間に応じて支援金を会社から支給するというものです。対象は男性社員に限らず、女性社員のパートナー(配偶者)が育休を取得した場合にも、同様に制度を活用していただけます。
2023年11月~2024年10月末期間中
- 育休取得率 女性100% 男性33.3%
- 制度利用率 女性20% 男性100%(育休を取得された方の内、制度を利用した割合)
働きやすい制度を作ろうと思われたきっかけや、そこに込めた想いを教えてください。
福崎さん:まず背景として、同時期に育児・介護休業法の改正があったことが、制度を考え始めるきっかけの一つとなりました。私自身が育休を取得した直後にこの制度の企画や担当に携わることになりました。実際に育休を取ってみて感じたことや思いがあったことに加えて、制度の作成にあたっては、社内の男性社員にも何人か声をかけ、状況やニーズなどをヒアリングしました。そういった現場の声も反映しながら企画した制度です。制度名の「ファミリーエクスペリエンス」には、ただ育休の取得率を上げるだけが目的なのではなく、社員に「育休をきっかけに、家族で過ごす時間をより豊かなものにしてほしい」という思いを込めて作った制度になっています。

ファミリーエクスペリエンス制度導入プロセスと周囲の反応
制度を作る過程で、育児休業の取得を促進するためにどのような取り組みを行いましたか?具体的なプロセスや工夫があれば教えてください。
福崎さん:社員に知ってもらうことを意識しました。制度開始にあたっては、社内掲示でのお知らせや対象者への個別案内を行いました。加えて、広報室とも連携し、外部メディア等を通じて、実際に制度を活用した社員の声なども発信しました。育休に関する問い合わせが入る際には、ファミリーエクスペリエンス制度についても知りたいとセットで聞かれることが増え、制度の認知度が上がっている実感を持てています。
制度を作るにあたり、作られる過程で、社内からの反対意見はありませんでしたか?
福崎さん:反対意見はなかったですね。企画を進めていく中では、もちろん役員や部署内での相談を重ねながら進めていきましたが、否定的な声はありませんでした。私自身が育休を取得した直後だったこともあって、「制度があったら育休を取得したくなるか?」と、すごく考えました。周りの「もし、次回、育休を取得する時は夫に勧めたい」という意見があったことが印象に残っています。
男性の制度利用率が100%と非常に高いですが、どのような背景や工夫がありましたか?
福崎さん:みなさん、「せっかく育休を取るならこの制度も使ってみよう」と考えてくださっているんだと思います。そういった思いがあるからこそ、男性社員で育休を取得した方の制度活用率が100%になっているのかなと感じています。
また、「制度を知っていただくこと」はとても重要なので、そこを特に注視はしております。たとえば、奥様がご懐妊されたという情報が、上司を通じて人事に伝わることもあれば、本人から直接連絡をいただくこともあります。そういったご連絡があった場合には、育休制度の説明に加えて、ファミリーエクスペリエンス制度についても必ずセットでご案内するようにしています。
個別案内の他に、広報の皆さんが制度を取り上げてくださる機会も多く、実際に制度を活用した社員の声を広めていただいており、制度について事前に知ってくださっている方が、以前よりも確実に増えてきているなという印象を持っています。
外部メディアを通じて発信した際、社内、社内外からどのような反応がありましたか?
福崎さん:そうですね、先ほども少しお話しましたが、制度について事前に知ってくださっている方が確実に増えてきたなと感じています。制度の詳細まではご存じなくても、「何か制度あるんだよね?」「育休取得を推進しているんでしょう?」といったような形で質問してくださる方が増えていて、社内での反応としてとても嬉しく思っています。
社外の反応で申し上げると、採用活動の場面で「プレスリリースや、記事を見ました」と話してくださる方もいらっしゃいました。そうやって制度の情報が社外にも届いていると実感できるのは、すごく嬉しいことだなと感じています。
ファミリーエクスペリエンス制度を利用して
制度が導入されてから、実際に利用してみて、どんな点が有用だと感じましたか?
杉山さん:2025年4月1日からの育児・介護休業法の改正により、「出生後休業支援給付金」が導入され、従来の育児休業給付金と合わせて、最大28日間は“手取り10割相当”の給付が受けられるようになりました。
ただ、私が育休を取得したのは2月から3月の期間だったため、この新制度の対象にはならず、従来通り67%の給付率でした。育休を取得するとどうしても収入が減ってしまうため、生活面での不安はつきものです。そんな中で、会社から給料とは別に支援金をいただけるこの制度は、本当にありがたいと感じました。
また、この制度があること自体が「育休を取ってみよう」と思えるきっかけになると感じています。
育児休業取得について周囲からの反応やサポートはどのように変化しましたか?
杉山さん:会社の同僚や部署のメンバーからは、育休を取ることに対して一切反対の声はありませんでした。むしろ、子どもができたことを伝えると、「ぜひ育休を取得して、家族との時間をゆっくり過ごしてほしい」といった温かい声をかけてもらいました。また、家族に対してもファミリーエクスペリエンス制度の内容を伝えたうえで育休を取ることを話したところ、「男性でも育児休業を取得できるなんて、本当に社員思いの会社に勤めていて良かったね」と言ってもらえました。
育児休業取得について制度が背中を押した瞬間や気持ちの変化や、「制度がなかったら育休取得を迷っていたかもしれない」と感じる場面はありましたか?
杉山さん:今回、育休を取得したのは2人目の子どもが生まれたタイミングだったのですが、1人目のときは、まだ「ファミリーエクスペリエンス」制度はなかったんです。社会的にも、男性の育休取得に対して、今ほど広まってはいませんでした。そんな中で、2022年にファミリーエクスペリエンス制度が作成され、育休を取るか迷うというよりは、「制度もあるし、せっかくだから家族との時間を大切にしたい」と思いました。会社全体に“育休を取りやすい雰囲気”があることもあって、それが大きく作用して今回の育休取得となりました。実際に制度を利用してみて、金銭面でも支援してもらえるのはありがたかったですし、「制度があるのであれば、ぜひ、 育休を取るせっかくの機会なので活用してみたいな」と思う後押しに間違いなくなっているなと感じました。
金銭的な支援以外にも良かったと感じた点があれば教えてください。
杉山さん:育休を取ったことで、家族との時間をとても大切に過ごすことができたなと 思っております。以前から家事や育児にまったく関わっていなかったわけではないのですが、仕事をしていると、どうしても十分に時間をかけられなかったというのが、正直なところです。そんな中で、今回、育休を取得することで、第一子と一緒に公園へ出かける機会が増えたり、夜中の3時間おきにミルクを作るような時間にも、しっかりと自分で起きて対応できたりと、「家族にとってプラスの要素しかなかったな」と本当に強く感じています。

社内の声掛けで、特に印象に残っている言葉はありますか?
育休取得を伝えた際に、特に印象に残っている同僚や上司の言葉があれば教えてください。
杉山さん:印象に残っているのは、部署の皆さんから「絶対に仕事しちゃだめだよ」「育休は絶対取ってね」と、すごく強く言ってもらえたことですね。妻が妊娠して第2子が生まれる予定だと話したとき、誰からも「いつから取るの?」「育休取るの?」とは聞かれなかったんです。もう最初から、「育休は取ってね」と、自然に背中を押してくれるような雰囲気でした。「杉山の業務に関してはみんなで分散して全然やるので育休は絶対取って欲しい」と、強く言われました。ファミリーエクスペリエンス制度についても、「絶対活用した方がいい。使わない理由がないから、ちゃんと使って、家族との時間を大切にして」というような言葉をかけられました。それでも、やっぱり育休中って、どこかで仕事のことが頭に浮かんでしまうことがあると思うんです。でも、そんなときでも「考えないでほしい、むしろ考えちゃだめ」「育児に集中して、ちゃんと生活してほしい」「メールも見なくていいし、チャットも確認しなくて大丈夫、安心して休んでほしい」、そんなふうに、部署のメンバーに強く言われました。
ファミリーエクスペリエンス制度を取得された方の意見を聞いて
実際に制度を利用された杉山さんの声を聞いて、何を感じられましたか?
福崎さん:杉山がちょうど復帰されたばかりのタイミングで、こうして改めて育休を取ってみてどうだったかというお話を伺うことができて、本当にうれしい気持ちになりました。「育休を取ったことで家族との時間をとても大切に過ごすことができた」と言っていただけたことも、すごく嬉しかったです。
制度を作る際には、育休を取ること自体を目的にするのではなく、その先にある「ご家族での時間を大切にしていただきたい」という思いを背景に込めて、お一人お一人にしっかり伝えるよう心がけてきました。「ただ育休を取ってよかったです」ではなく、その先の家族との時間を想像できて、すごく嬉しいです。「いい会社だな」と思っていただけたことは、日々の業務にもポジティブな影響を与えているのではないかと感じています。杉山が言っていたように、育休中は部署内で業務を分散してカバーするという体制が必要になります。もともと当社は140名ほどの比較的小規模な組織なので、一人一人に任されている業務の幅も広く、パパ・ママを問わず、誰かが休むとなったときに、”お互いに支え合える体制”をつくっていくことが、とても大切だと考えています。そうした考えが、今回の制度や育休取得にもきちんとつながっていると実感できて、改めてありがたく思っています。ありがとうございました。
最後に
他の企業や組織に向けて、働きやすい制度づくりや男性の育児休業支援について伝えたいことを教えてください。
福崎さん:弊社としても、「働きやすい」「働きがいがある」と感じられる会社をつくっていけたらと考えています。ただ、何かひとつ制度を整えればゴールというわけではなく、社員の状況や社会の変化を見ながら、柔軟に進化し続けていくことが大切だと感じています。
「育児がしやすい」「女性が働きやすい」ことはもちろんのこと、若手・中堅・ベテランといったそれぞれの立場やライフステージにある社員が、生き生きと働き続けられるような環境を目指していきたいと思っています。
そういった中で、はたママproject 様のように情報発信を積極的に行っている企業や、他社の取り組み事例から学ばせていただく機会も多くあります。私たち自身も、他社の実践を参考にしながら、自社の制度づくりに活かしていけるよう、日々試行錯誤しています。
いろいろな企業が、自社の取り組みを発信し合い、お互いに気づきや学びを与え合うことで、働きやすさの価値観が社会全体に広がっていく、そんな流れの中に、弊社の取り組みも少しでも貢献できていたら嬉しいです。
杉山さん:実際に育休を取得してみて改めて感じたのは、「制度がある」こと以上に、「会社として育休を取ることが当たり前とされる雰囲気」が本当に大事だということです。弊社の場合、その雰囲気がある程度できあがってきていて、男性育休についても自然に話ができる環境が整ってきていると感じています。世の中にはまだ「男性が育休を取るなんて…」という空気が残っている会社もあると思います。制度が整っていることももちろん大事ですが、「育休を取るのが当たり前」といった会社全体の雰囲気づくりが大切だと思います。そうした雰囲気を持つ会社が増えていくことで、社会全体としても男性が育休を取りやすくなる流れが生まれてくるのではないかと思っています。
今回の福崎が作ってくれたファミリーエクスペリエンス制度のように、社員本人だけでなく、たとえば女性社員の配偶者(他社勤務のご主人など)が育休を取った場合にも、会社として支援を行うような制度があることは、会社の枠組みを超えた広い支援の制度になっていると思います。そういった制度があることによって会社全体でも育休取得が当たり前にできる状態にできていると思うので、「育休を取得しやすい環境が整った会社が増えてくるといいな」と思います。

編集後記

取材を通して印象的だったのは、制度そのものの有用性だけでなく、それを支える「株式会社CHINTAI」の職場の姿勢、福崎さんの制度のその先にある「ご家族での時間を大切にしていただきたい」という思い、杉山さんの「周囲の言葉が本当に心強かった」という感謝の声でした。制度と職場の姿勢が融合することで、初めて“男性育休が取りやすい会社”が生まれるのだと感じました。今後もこうした制度と実践が、他社や社会へと広がっていくことを願っています。
関連リンク
株式会社CHINTAI
https://www.chintai.jp
お名前:福崎 奈穂子
職業:会社員
お子さんの年齢:4歳
居住地:東京都
勤務形態:裁量労働制