一人ひとりの「生きる力」で、人も、組織も、成長する。


ECサイト、店舗、倉庫。小売業が抱えるすべての商品在庫をAIで管理・分析し予測をたて、在庫を利益に変える分析クラウド「FULL KAITEN」を展開するのが、フルカイテン株式会社です。在庫を利益に変えることで、企業側のメリットはもちろん、世界中で行われている大量廃棄という環境問題の解決の糸口にもつなげることができます。壮大なミッションを掲げる新進スタートアップ企業のCEOを務めるのは、大阪ご出身の瀬川直寛さん。お話を伺ったのは、1か月前に新たな拠点に「教育移住」をしたばかりというタイミングでした。

❇︎インタビュー日時:2022年11月末

教育移住とは?新たな拠点は長野県伊那市

箕輪湖_箕輪もみじ湖の紅葉


➖お子さんの教育を考えて、1か月前に長野県伊那市に移住されたとのことですね。
以前住んでいた大阪では、朝、子どもたちを起こすのに一苦労でした。子どもたちにとって、学校とは仕方なく行くところ、できれば行きたくないところだったからです。それが今では、早く学校に行きたくて、早朝から起き出してくるようになり、環境によってこんなにも変わるものなのかと驚いています。

以前の小学校は、地域の公立小学校ながら学力が高いことで知られていて、保護者からも人気がありました。しかし、私と妻が懸念していたのは、子どもたちの可能性が「学力」というたった一つの価値観にとらわれてしまうことでした。学力と言っても、さまざまな教科がありますし、足の速い子、工作が得意な子、歌が上手な子だっている。皆それぞれ可能性を持っているのに、テストなどで学力を数値化して評価をつける現行のシステムの上では、その基準から外れただけで子ども自身が「自分はだめだ」と思い込んでしまう可能性があると感じていました。子どもは誰にでも、何らかの形で輝けるポイントがあるはずなのに、評価の軸の方が画一的すぎるせいで、子どもから自信を奪い、成長の可能性を失ってしまう教育は本末転倒だと考えたのです。

➖ご家族での移住は、大きな決断ですね。
私自身も、家族に対する不安を抱えたまま仕事をすることにストレスを感じていました。スタートアップのCEOとして、子どもを持つ前までは、自分のペースで仕事を優先して走り続けてきたのです。しかし、親としての立場が加わると、必然的に同じような仕事の仕方はできなくなります。子どもがいるといないとでは、日々の時間が全く異なるものになりますよね。ライフステージが変化したのだから当然なのですが、企業活動の経営やマネジメントは、こうした個々人の変化に配慮することなく、画一的な価値観の下で設計されているところがあると強く感じました。私自身がもともと、仕事と自分、家族を分けて考えるタイプではなく、3つのバランスを保った状態でないと高いパフォーマンスが発揮できない方なので、組織をつくっていくうえでは、個人の変化に合わせて、枠組みの方を対応させていく必要性を強く意識するようになりました。

教育と組織作りの共通項

イベントでは必ずDIYコーナーが。幼児でもかなづちや釘を自由に使う


➖組織を運営する側としては、枠組みを整え、そこに順応してもらう方が楽ではありませんか?
考えずにすむ、という点では楽かもしれませんね。しかし私は、教育にしても、企業などの組織にしても、先に設定した枠組みの方に個人が合わせていく方法がベストだとは思いません。そのようなやり方が通用したのは、モノ不足だった高度経済成長期までです。モノを作れば作っただけ売れた時代には、ひたすら効率を追い求め、手っ取り早く正解を導き出すことが良しとされました。こうした時代なら、枠組みの中に人々をはめこみ、レールの上を流れていく詰め込み型の教育でも機能したことでしょう。しかし、今の日本は「モノ余り」の時代。少子高齢化で労働人口も減り、市場も縮小していく中で、正解に効率よくたどり着くだけの能力の価値はどんどんなくなってきています。それよりも大切なのは、「生きる力」を持っていることだと、強く思っているのです。

大切なのは「生きる力」

小学校から見える街並みとアルプス


➖瀬川さんの考える「生きる力」とは?
端的に言えば、「自分で考え、行動する力」だと思います。例えば、移住した伊那の小学校には、時間割もチャイムもありません。学校にいる時間は、決められた枠にそって何も考えずに行動していれば何とかなる、というものではなく、取り組むべき課題に対して何をするべきか、子どもたち自身が一から考える必要があります。
長女が所属するクラスの課題として「ログハウス作り」があるのですが、まず何をしよう、そうだ森に行って材料の木を伐りだして集めてこよう、という段階から始まるのです。子どもたちなりに懸命に考え、試行錯誤して挑んでいきますが、一年かけてもうまく行かず、失敗したりします。失敗を通して、子どもたちはまた考える。「どうしてうまくいかないのだろう?」「長さや太さが合っていないからかな」「そうだ、設計図がないからじゃない?」と意見を出し合います。

するとそこで、計測や設計図作りに必要な算数を子どもたち自身が学び始めます。何のために勉強するのか、が実に明確なのです。ログハウス作りの失敗という経験から、設計図の必要性に行きつき、設計図作りに必要だから算数を懸命に学ぶ。一方的に詰め込まれ、やらされる勉強とは入り口から違います。このように、自分の頭で考え、能動的に行動できる力こそが、「生きる力」だと思うのです。生きる力があれば、何かに失敗したとしても、その経験から学び、自分の糧にすることができます。

伊那小学校の中庭にいるポニー。生徒皆でお世話をしている。

3度の倒産危機を経て生まれたFULL KAITEN


➖ご自身も、3度の倒産危機を乗り越えられた経験がおありです。
倒産危機を回避した経験がある方の中でも、3度も経験しているのはなかなか珍しいのではないかと自負しています(笑)。
一度目の危機は、単純に在庫を抱え過ぎたことが原因でした。売れない在庫を抱え、資金繰りに行き詰りましたが、この時は商品の価格を下げ、セールをして乗り切ったのです。ここで、在庫の性質を分析し、リスクを把握して事前予測を立てることで、不良在庫を炙り出すロジックに辿り着きました。
二度目の危機は、売れる商品と売れない商品、という2軸にとらわれてしまっていたことで訪れました。元々売れ筋だったものの、このところいまひとつ売れ行きが良くない商品があったとします。それは、本当に力のない商品なのかというと、ただ停滞しているだけで、販売促進の機会を増やせば再び大きく売れる力を持っていたりもする。そういう商品までセールで売ってしまったのでは、利益に結び付きません。値引きという手段をとるのは本当に売れにくい商品だけで、売れ筋と不良在庫の間にはグラデーション部分があることを、この経験から学びました。

そして三度目は、送料無料にするための購入金額を大きく下げたことが原因でした。
少ない購入金額でも送料を無料にすれば売れ行きが増えるかと思ったのですが、見込みははずれ、増加率は1.2倍程度。しかも、購買客層が大きく変わってしまったのです。この経験を通して、「客単価」についての知見を得ました。在庫商品の分析に、客単価を上げる商品、下げる商品、というロジックが加わることになり、さらに分析の精度向上につながったのです。

FULL KAITEN のこれから

瀬川さんの仕事風景


このように、私自身が何度も失敗を経験し、「生きる力」によって再浮上する過程で生まれたのが、商品の持つ力をワンクリックで可視化する在庫分析クラウド「FULL KAITEN」です。
大阪本社、東京オフィスに加え、愛知やコスタリカ在住の社員もいます。前述の通り伊那にも新しく拠点を増やしましたが、社員の働き方は原則フルリモートで、部門によっては出社日もありますが、出社か在宅かの判断から各社員に一任しています。働き方は手段に過ぎず、それよりも各人が目的に対してどのように考え、実践していくかの方が重要なので、どこで働くかは気にとめていません。

子育て中の社員にとっては、フルカイテンは自分がいて良い場所なのだと思ってもらえる場にしたいと思っています。
自分自身も経験しましたが、独身時代と結婚して子どもが産まれてからは日々の時間が全く異なるものになります。今の日本の社会だと特に女性はその傾向が強いですよね。
経営やマネージメントの考え方が時間の自由度が高い独身者に最適化された設計になっている場合、独身から結婚、子どもが産まれたといったライフステージが変わった社員のパフォーマンスは間違いなく落ちます。
例えば家庭に無理を求めながら働くようなシーンがそれに該当するのですが、そういう時間が長く続くと社員は家族からの理解を得られないばかりか場合によっては家族からプレッシャーを感じるようになるでしょうし、家庭内不和や子どもの成長にも影響が出てしまうかもしれません。
このような形で家庭が不安定になると、家庭優先の気持ちが強くなって今度は仕事が中途半端になり、そうすると会社の仲間からどう思われているのか疑心暗鬼になったり自分の評価が落ちるのではないかと不安になったりします。
家庭と仕事どちらの時間からも達成感を感じられず、自己肯定感まで下がってしまうと、最初に会社だけでなく、家庭にも自分の居場所はないと思ってしまうはずです。もしそういう人が退職を選択したら、会社にとっては痛手以外の何物でもないですよね。
こういうことが起きるのは、ライフステージの変化を無視した画一的な価値観のもとで経営やマネージメントが設計されていることに原因があると私は考えています。

社員一人ひとりが、「ここには私の居場所がある」「ここでは無理せず自分らしく仕事の時間を過ごせる」と思える会社を作りたいと考えています。

最初から、飛躍的な成長を目指そう!とは思っていません。働く一人ひとりが、自分らしく生きる力を伸ばしながら自分のペースで成長を続けていくことで、気づけば会社が成長している。組織の成長とはそのようなものです。そのために、これからも私たちらしいマネジメントスタイルやカルチャー、評価などの統治機構を確立していきたいですね。

株式会社フルカイテンの働く環境

➖働きやすい環境への取り組み、それに対する社内での反応、また、現在感じている課題がありましたら教えてください。

働きやすい環境への取り組み

1)働き方
■ 原則フルリモート。大阪、東京、長野にオフィスはあるが、在宅か出社の判断は基本的に社員に一任
■ 出社又はリモートかは手段に過ぎないので、良いも悪いもないと考えている。それよりも目的に対して何が良いのかを考えることが大切
■ 社員一人ひとりの良さや個性を引き出すマネージメントと、そのような統治機構を持った会社作りを行いたいと考えている
■ 伊那に移住して、自分らしく自然な状態でいることができると、その人の魅力や能力をこんなに引き出してくれるものなのかと気づいた
■ 弊社の社員が自分らしく自然な状態で仕事の時間を過ごせるような仕組みを整えていきたいと考えている
2)バリューカード
■ 弊社のカルチャーの一つで、価値アンテナ・全力トライ・スクラム志向という弊社のバリューを体現していると思った社員に対して、その内容をカードに記して渡す制度。受け取った人は、「自分の頑張りを誰かがちゃんと見てくれていた」と励みになり、渡す側も他のメンバーのことを観察することで、相手の良いところを探すことにもなる。そうしてバリューの連鎖が続いていくことがバリューカードの狙い
3)1on1
■ 経営陣がそれぞれの管掌範囲のチームと1~2週に1回、1人30分の1o1を実施

それに対する社内での反応

1)働き方
■ 2022年10月の弊社オープン社内報カスタマーサービス山口の言葉を引用
● 社長である瀬川さんが固定概念にとらわれないところが好きです。瀬川さんご家族が長野県にお引越しすることになったじゃないですか。驚いて思わず笑ってしまいました。会社の代表がそういう姿を率先して見せてくれることで、色んな方法があるし自分もそういう選択肢があるんだなと感じられることがすごくいいと思います。
■ 伊那に移住後、多くの社員が「伊那いいな~(だじゃれ)」や「伊那にワーケーションしに行ってもいいですか?」などのポジティブな反応が寄せられた
2)バリューカード
■2022年10月の弊社オープン社内報より、カスタマーサクセス山口の言葉を引用
● バリューカードの取り組みはすごく良いと思っています。実は最近カードを頂いて、なんか素直に嬉しいなって思いました。いざ誰に渡そうかなと考える時も、いつも仕事でやり取りしている方はもちろん思い浮かべるし、仕事でやり取りしてない方も「どんなことをしていたかな」などと振り返るきっかけにもなります。自分の中でとてもいいなって思います。
3)1on1
■ 瀬川との1on1で自分とチームに起きた小さな変化・進化についてのアンケートより社員の回答を抜粋
● 自分に起きた小さな変化・進化
○ 自分では小さすぎることだと思いつつも、できた事などをシートに記入。振り返った時に、小さな進歩の積み重ねが、進化に繋がっていることを実感した
○ Slack上での発言に対して自分の感じたことや感謝、労いの言葉をコメントするよう心掛けるようになった
○ 瀬川さんがよく言っていることを1on1でも多用されていて、(成長は螺旋階段、ハッピーに幸せにとか)、本当に常日頃から考えておられるという意味で1on1でも直接語り掛けられると、カルチャーの浸透効果があると思った
● チームに起きた小さな変化・進化
○ 誰かの成長や良いところを発見することで、チーム全体も明るくなる
○ 誰がどういったことができるようになってきているのかが、以前よりも解像度高く分かるようになり、誰にどういったことを頼ると良いか、何を任せられそうかなどが分かるようになった。結果、コミュニケーションが取りやすくなり、業務効率も上がった

現在感じている課題

弊社が目指すべき統治機構およびマネージメントスタイルが模索中だという点

■ 拡大市場から縮小市場への移り変わりは効率ではなく総合力で勝負する時代への移り変わりと同義。総合力というのは社員一人ひとりの良さや強みを引き出してその総和で戦うという意味なので、マネージメントは画一的な見方を捨てて1to1なマネージメントが求められる。これはボードメンバーを含む多くの社員にとって今まで経験してきたことと必ずしも一致するものではないため、カルチャーレベルでの浸透が必要になると考えている

オフィスからゴミ捨て場へ歩く道にも紅葉が!

フルカイテン株式会社
https://corp.full-kaiten.com/

編集後記

生まれ育ち、住み慣れた関西から長野県伊那市へ。ご一家での教育移住という、思い切った決断を実行に移されたばかりのタイミングでしたが、お話ぶりから、お子さんたちはもちろん、ご自身を含むご家族全体、さらに社員の皆さんへの良い影響が伝わってきました。
教育も、事業も、今この時だけでなく、後世にどう良い形でつなげていけるかを真剣に考えていらっしゃる瀬川さん。生きる力の大切さが伝わる、熱意あふれるインタビューでした。

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