「キャリアを諦める」という選択肢を、そもそもなくしたい。
そう語るのは、医療・ヘルスケア分野を中心に専門性の高い編集制作を手がける株式会社エフスタイル代表 宮田志保さんです。2007年の設立以来、正確で信頼性の高いコンテンツを強みに、企画立案から取材・執筆・編集・進行管理まで一貫して担ってきました。
同社が大切にしているのは、「すべての人が自分らしく働ける社会を目指す」という価値観。育児や介護、転勤といったライフイベントを理由にキャリアを中断するのではなく、組織の側が柔軟に変化することで継続できる環境を整える——その思想は、2015年から本格導入したテレワークやフレックスタイム制度にも色濃く表れています。
さらに2026年度からは、「働く」をキーワードに、経験者と相談者を匿名でつなぐ相談サービス「Advio(アドビオ)」を本格展開。仕事や人生の悩みを、同じ立場や実体験を持つ人に直接相談できる場をつくることで、孤立を防ぎ、人と人・人と情報をつなぐ新たな支援のかたちを提示しています。利益ありきではなく、「役に立つこと」を起点に広げていきたいという姿勢も印象的でした。
専門性の高い業務とライフイベントの両立を可能にする仕組み、そして社員の心身のケアまでを視野に入れた独自の取り組み。その背景にあるのは、「会社が人に合わせて変わり続ける」という揺るぎない信念です。
本記事では、宮田代表の原点にある想いから、テレワーク体制の具体的な工夫、そして人生ごと受け止める組織づくりのリアルに迫ります。
「キャリアを諦めない」環境づくりと理念について
「キャリアを諦めるという考え方自体をなくす」という信念に至った背景や、代表としての原点について教えてください。
私は27歳で第一子を出産しました。当時はまだ育児休業も取りづらい時代で、出産を機に会社を退職しました。子育てはもちろん大切でしたが、ふと「自分のキャリアはここで終わるのかな」と思った瞬間があったんです。
一日中、赤ちゃんとしか話さない生活。仕事で忙しくしていた頃よりも、家にいるほうがストレスを感じる自分がいました。「何のために必死で働いてきたんだろう」「どうして女性だけが諦めなきゃいけないんだろう」と、強い違和感を覚えました。
その後、在宅ワークのネットワークを広げ、NPOを立ち上げ、多くの女性たちと出会いました。能力も意欲もあるのに、結婚や出産、介護をきっかけに「続けたくても続けられない」人たちをたくさん見てきました。
本来は環境が変わっただけなのに、なぜキャリアを手放さなければならないのか。個人が我慢するのではなく、組織が変わればいいのではないか。そう思ったことが、今の会社づくりの原点です。
だから私は、「キャリアを諦める」という考え方自体をなくしたいと思っています。
地方転居や育児があってもキャリアを継続できる体制をいち早く整えられた背景と、テレワーク導入時の苦労はありますか?
大きなきっかけは、優秀な社員の結婚と転居でした。医療分野の専門性を持つ社員が、結婚を機に長野へ行くことになったんです。当社は東京の小さな会社ですし、長野に同じ仕事はありません。遠距離婚を続けながら働く姿を見て、「これは違う」と思いました。
キャリアも家庭も、どちらも諦めなくていい方法はないのか。そこでテレワーク導入を決めました。
いきなり実行するのではなく、まず社内でシミュレーションを行いました。同じ会社にいながら別室に移動し、遠隔勤務を想定して1か月ほど試しました。書類共有の方法、進捗管理、相談の仕方など、一つひとつ確認しました。
苦労したのは、情報共有とチームマネジメントです。ライティングのように一人で集中する仕事は問題ありませんが、チーム全体の進捗や感情の機微をどう把握するかは難しかったですね。
だからこそ、朝会や雑談の時間を設けるなど、意図的にコミュニケーションを増やしました。結果的に、テレワークは福利厚生ではなく、生産性向上のための制度へと位置づけが変わっていきました。
育児中の社員を支える制度づくりの中で、組織としての考え方が変化した出来事はありますか?
実は、大きな反省があります。
妊娠中の社員がつわりで休みがちになり、その分の仕事を若手社員が引き受けることになったことがありました。本人は「大丈夫です」と言ってくれていたのですが、結果的に退職してしまったんです。
その時、「育児中の社員を支えること」ばかりに目が向いていて、独身や若手社員の負担に十分配慮できていなかったと気づきました。
それ以来、子どもがいる人だけを優遇するのではなく、全員が柔軟に働ける体制へと見直しました。裁量労働制の活用や、プライベートを尊重する働き方もその一つです。
韓国のライブに行くためにワーケーションをすることも認めています。子育て中かどうかに関係なく、誰もが人生を大切にできる環境であるべきだと思っています。

チームで専門性を支える仕組みについて
専門性の高いディレクション業務を“代わる”のではなく“つなぐ”体制にするために、具体的にどのような工夫をされていますか?
当社は医療分野の専門性が高い案件を扱っています。だからこそ、属人化は最大のリスクです。
案件の進め方や判断基準はできる限り言語化し、共有しています。また、必ず複数人が案件の状況を把握する体制を取っています。
「誰かが代わる」のではなく、「チームでつないでいく」という感覚です。どこを見れば状況が分かるのか、常に可視化しておく。任せきりにしない。
育児や介護は突然やってきます。急な発熱もあります。だからこそ、誰かが抜けても自然につながる仕組みを整えています。
バーチャル環境下で、心理的距離を近く保つために意識していることは何ですか?
テレワークで一番難しいのは、感情の共有だと思っています。
この人は疲れているのか、怒っているのか。そこが見えないと、すれ違いが生まれます。
だからこそ、業務連絡だけでなく雑談の時間を大切にしています。朝会は毎日行い、「声をかけていい空気」を意識しています。失敗や弱音も出せる関係性づくりが、心理的距離を縮める鍵だと思っています。
ツールよりも、関係性。そこを一番大切にしています。
独自のリフレッシュ施策:子連れ旅行とエステについて
子連れ社員旅行とエステという取り組みを始めた理由を教えてください。
私自身、若い頃の社員旅行があまり好きではありませんでした。だからこそ、「行きたくなる社員旅行」にしたいと思ったんです。
子ども連れOKにし、さらに上司や幹部が子どもを見る間に、社員がエステを受けられる時間を設けました。
子育て中の社員は、自分のケアを後回しにしがちです。だからこそ、会社が「休んでいい」と本気で伝えたいと思いました。
最初は驚かれましたが、「本当に休めた」「大切にされていると感じた」という声が届きました。
実際に子どもを会社全体で見守る時間を設けたことで、組織や若手社員にどんな変化がありましたか?
若手社員が実際に子どもを預かることで、「こんなに大変なんですね」という言葉が出ました。
二時間泣き続ける子もいましたし、元気に走り回る三歳児もいました。実際に体験することで、育児のリアルが伝わります。
その結果、保育園から呼び出しがあったときも、「今はお母さんしかできないことを優先してきてください」と自然に言える空気が生まれました。
子どもを含めて人生ごと受け止める姿勢が、信頼関係を深めていると思います。

未来に向けたメッセージ
今の時代に「安心して働き続ける」ために最も必要なことは何だとお考えですか?
一番大切なのは、「変わっていい」と会社が認めることだと思います。
制度は完璧でなくていい。でも、社員の状況や時代の変化に合わせて見直し続ける姿勢が、安心につながります。
会社に人を合わせるのではなく、会社が人に寄り添い続ける。その積み重ねが、継続できる働き方を支えるのだと信じています。
編集後記
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「キャリアを諦めるという考え方自体をなくす」——宮田代表の言葉が、今回の取材の軸でした。
制度の充実以上に印象的だったのは、社員一人ひとりの状況に合わせて、会社側が変わり続けようとする姿勢です。テレワーク、子連れ社員旅行、アドビオの導入——そのどれもが、「人生ごと受け止める」という覚悟から生まれていました。
キャリアと子育てを対立させない。環境が変わっても、歩みを止めなくていい。
そんな働き方の可能性を、具体的な実践として示してくださった時間でした。
関連リンク
特定非営利活動法人フラウネッツ
http://www.fraunetz.com/
株式会社エフスタイル
https://www.fstyle-ltd.jp/
オールアバウト「SOHO・在宅ワーク」
http://allabout.co.jp/gm/gt/443/












お名前:宮田志保
役職:代表取締役
ご経歴: 石川県金沢市出身。大学卒業後、電機部品メーカーに就職。製品の広報業務に携わる。編集者の夢を諦めきれず広告代理店に転職。徹夜の毎日を送る。出産のため退社。個人事業主として仕事復帰。本業とあわせながら在宅ワークのネットワークを構築し、2003年9月「特定非営利活動法人 フラウネッツ」を設立。多彩な人材を活かし2007年7月「株式会社エフスタイル」を設立。株式会社オールアバウト「SOHO・在宅ワーク」ガイド。厚生労働省在宅ワーク支援事業検討委員などを歴任。
株式会社エフスタイルでの社長就任年:19年
居住地:東京都