子育て中でも「自分のやりたいことを諦めない」――その想いから誕生したのが、親が安心して休みながら、子どもがのびのびと遊べる貸切キッズスペースを備えた「遊び場カフェ」です。出産後、頼れる人が近くにいない中で感じた「親が一息つける居場所の必要性」。その課題を自ら解決しようと立ち上がった榎本 沙奈さんにお話をお伺いしました。
挑戦のきっかけ・背景について
遊び場カフェを立ち上げようと思ったきっかけを教えてください。
実家が片道4時間ほどかかる距離で、基本的に私と子どもたちだけで過ごしていました。保育園に預けていない時間は一日中一緒で、自分のストレスを発散するタイミングが取れず、コーヒー一杯すらゆっくり飲めない状況でした。家では子どもが「どこか行きたい」と言い、外に出ると常に付き添わなければならない。そんなとき、「家」と「外」を組み合わせたような“貸切”の遊び場なら、親も一息つけるのではないかと思ったのがきっかけです。
また、実家近くのカフェに個室があり、そこに滑り台や遊具が置いてあって、子どもを遊ばせながら友人と話せた体験がありました。「こういう場所なら安心して過ごせる」と感じたことも大きなヒントになりました。
出産後、実家が遠方で頼れる人がいない中、「貸切で目が届く広さの室内遊び場があったらいいな」と思ったそうですが、具体的にどのような状況や体験がこのアイデアにつながったのか教えてください。
最初はとにかく「室内の遊び場を作りたい」という思いから始まりました。町の起業スクールで「自分のできる範囲でやってみたら」と背中を押してもらい、まずはレンタルスペースでベビーマッサージのイベントに合わせてキッズスペースを作りました。
でも、イベント時だけでは「行きたいときに行ける場所」にはならないと感じました。結局そのときの取り組みは一度で終わりましたが、「やっぱり常設の遊び場が必要だ」と改めて思うきっかけになりました。
廃校を借りて遊び場を立ち上げることにした決め手や、最初に動き出したときの心境をお聞かせください。
新しく大きな室内遊園地が町内にできたとき、「もう私がやらなくてもいいかも」と一度は不安になりました。けれど実際に行ってみると、結局は親が追いかけ回さなければならず、「やっぱり貸切の遊び場は必要だ」と確信できました。
その後ちょうど近所の学校が廃校になり、月額で一室を借りられる機会がありました。「もうここでやってみよう」と決断したんです。最初に遊び場を整えるときは、家で使っていたおもちゃを持ち寄ったり、地域の方から寄付していただいたおもちゃを置いたりして始めました。身近なものや人のつながりに支えられて、少しずつ形になっていきました。
これまでの経験にとらわれず、挑戦しようと思えたきっかけは何ですか?
子どもがまだ保育園児で、当時が一番大変な時期でした。普通なら「こんな時に新しいことを始めるのは無理」と考えるかもしれません。でも逆に「一番しんどい今だからこそやらないと、一生こういう施設はできない」と思ったんです。
「自分の子どもがママになったとき、同じ苦しさを味わってほしくない」という思いも強くありました。私自身が辛さを経験しているのに「大変だからやらない」となってしまえば、行政や企業など他の人に頼んでも、私より熱意は低いはず。結局、誰も作らないまま終わってしまうと感じました。だからこそ、自分で体現しようと思いました。
そしてもう一つは、普通のママが困りごとを解決できるということを自分で体現し、子どもにも希望をあたえたかったからです。
当時、特に困難だったことや、それをどう乗り越えたかを教えてください。
当時は週3回のパート勤務に加えて在宅ワークもしていたため、遊び場づくりの時間を確保するのが難しかったです。そこでパート先に掛け合い、業務委託として完全在宅に切り替えてもらいました。ちょうどSNSの立ち上げを提案していた時期でもあり、その仕事を任せてもらえたことで、通勤時間が減り、遊び場の準備に時間を使えるようになりました。
動画制作やITの活用による業務効率化の具体例を教えてください。
フリーランスで動画制作の仕事もしていたので、そのスキルを活かして利用者への案内を動画にしました。現地で一から説明する必要がなくなり、誰でも同じ内容をスムーズに伝えられるようになりました。その分スタッフの負担も軽減され、無人運営を実現できています。

働き方・生活との両立について
遊び場運営とリモートワークを両立するために、日常で工夫していることはありますか?
遊び場は基本的に無人で、予約が入ったら利用者さんに説明動画を送ります。その後のやり取りはスタッフにお願いしています。私はその間にSNSでの発信や集客をしたり、WEBの仕事や企業のSNS運用代行をしたりしています。自分がやらなくてもいいことは、働きづらさを抱えているママさんにお仕事としてお願いしています。
遊び場の現地運営はスタッフに任せているとのことですが、どのように役割分担や指示をしていますか?
予約の対応は公式LINEでやり取りしていて、それをスタッフが担当しています。現地での案内は、私が作った動画を送ることで、誰が対応しても同じ説明ができるようにしました。掃除や片付け、施錠はスタッフにお願いしていて、私はSNS発信や集客をしながら全体の流れを見るようにしています。
移住(Uターン)と仕事の両立で大変だったことや、新たに発見したことはありますか?
大変だったことは、今までは遊び場まで車で3分ほどの距離に住んでいたので、何かあればすぐに行けるという安心感がありました。でも移住したことでそれがなくなり、不安はありました。そこで、防犯カメラやアレクサを設置して、スマホからいつでも部屋の様子をチェックできるようにしました。
移住後の気づきとしては、これまではオープン時に新聞記者さんに取材していただいた程度だったのですが、夏休みに三重に滞在していたときにローカルテレビや新聞社さんから取材を受けました。住んでいる場所は関係なく、評価していただけるんだ、と感じました。
核家族・ワンオペ育児の中で、自分の時間や仕事を確保するために意識している工夫は何ですか?タスク管理やスケジュール管理の具体例も聞かせてください。
遊び場の利用後の片付けや掃除、おもちゃを拭いたり消毒したりする作業は現地スタッフさんにお願いしています。予約は公式LINEから受け付けていて、その際にテンプレートを送るやり取りもスタッフに任せています。
一方で、集客やSNS発信、テンプレートの作成などは私が担当しています。
また、仕事全体としては、自分がやらなくてもいい作業は、働きづらさを抱えているママさんに振るようにしています。関わっているスタッフは現地運営を含めて6人ほどで、動画編集ができる人、ホームページを作れる人、SNSが得意な人など、それぞれが得意なことを担当してくれています。現地スタッフは掃除が得意な方で、ホテルのハウスキーパーのように綺麗に整えてくれるのでとても助かっています。
日常の具体例・挑戦の姿について
遊び場での1日の流れを簡単に教えてください。
遊び場は基本的に予約が入っていなければ無人です。公式LINEから問い合わせが来て予約が入ると、スタッフがメッセージでやり取りをします。当日はお客様がセルフで来て利用し、支払いはPayPayやURL決済で済ませてもらいます。現金の場合は現地のスタッフに処理をお願いしています。利用が終わるとスタッフが掃除に入り、30分ほどで片付けと施錠をして終了、という流れです。
SNSやWEBを活用した集客や業務の工夫について、日々どのような取り組みをされていますか?
情報発信は、私かもう一人お願いしている方がインスタグラムでストーリーを投稿しています。「今日空いてます」「今週末利用できます」など、当日の情報を発信することも多いです。特に雨の日は当日予約が多く入るので、発信が大切です。また、予約や連絡のやり取りは公式LINEを使ってテンプレート化し、スタッフがスムーズに対応できるようにしています。
遊び場を無人で運営するにあたり、工夫していることや、これまでに困ったことはありますか?また、その際どのように対応されましたか?
遊び場は基本的に無人で運営しているので、予約時に説明動画を送るなど、事前に利用方法を分かりやすく伝える工夫をしています。支払いもPayPayやURL決済を導入し、現金の場合はスタッフが後から処理するようにして効率化しました。
困ったことはほとんどなく、皆さんとても綺麗に使ってくださっています。初期の頃に食べこぼしが残っていたことが一度だけありましたが、スタッフがいつもの作業時間内で片付けられる程度でした。むしろ「こういう場所を作ってくれてありがとう」と感謝の言葉をいただくことが多く、皆さん丁寧に使ってくださっていると感じます。住所や名前の同意書をいただいていることや、防犯カメラの設置も、安心して利用いただける環境づくりにつながっています。
子育てや仕事の合間に「やりたいことを諦めず行動し続けるための工夫」は何ですか?「小さく始めて進める」具体例を教えてください。
遊び場に関して言うと、廃校に作るまでの間に、一番初めは自分の家の庭で遊び場にして、庭にブランコとエア遊具とプールとか遊具とかいっぱい置きました。そこでパーティーなどして近所の人などを呼びました。そこで、ちょっと楽しい空間ができた!というのを見ていただいて、「私はこういう場所を作りたいんです」みたいな感じで話しました。また、街の起業の場のところなどでも話しました。
そこから友人のベビーマッサージの方のキッズスペースを作るとか、本当に小さいステップを徐々に踏んでいきました。自分のできるかわからないことをいきなりやってと言われるとすごい大変ですが、自分がいつもやってることや好きなことがあったらできるので、それを段階的に「これはできた、じゃあ次これやってみよう」ぐらいの、ちょっとずつの積み重ねでできていくのかなと思いました。

目標と期限を決めることが大切とのことですが、実際にそれを意識して行動したことで周囲が道を開いてくれたエピソードはありますか?
これは移住も関係してくるんですけど、遊び場が去年の7月にオープンして、移住するって決めたのはそれより前の3月とか4月とか数ヶ月前でした。まず「一年後の春までに移住する」っていう日を決めて、今動かないと間に合わないと思って、4月か3月ぐらいに移住を決めて、5月に契約して準備をして7月にオープンしました。期限を決めたので、7月オープンできたと思います。
その後、7月8月は全く何も決まってなかったんですけど、そこから「この日に移住します」って周りに言い出したら、親戚の方が「じゃあ家を探してあげる」とか、そういうのが重なって、移住もできるようになりました。遊び場の方も、スタッフさんが「私やりますよ」「いつでも行けますよ」と言ってくださって、周りの方から「これはどう?あれはどう?」みたいに言っていただいて、開けていったっていうのがあるかなと思います。
目標と期限と、あとそれを周りに言わないとダメですね。言わなかったら思ってないのと一緒だなと思い、その三つを意識してます。
最後に、子育て中でも自分のやりたいことに挑戦したいと思っているママたちに、メッセージをお願いします。
「目標と期限を決めて、周りに発信すること」。それをすると、必ず誰かが助けてくれて道が開けます。私自身、子育て中に遊び場をつくり、在宅ワークに挑戦し、人生を変えることができました。だからこそ「誰でもできる」と思っています。ぜひ一歩を踏み出してみてください。

遊び場カフェの事業内容について
カフェの主な事業内容と、特徴や他と違う強みを教えてください。
- 貸切キッズスペース:家族単位/少人数/刺激控えめ/飲食OK/天候に左右されない。親は座って休め、リフレッシュやちょっとした作業(仕事など)もできる。
- イベント開催:挑戦したいママがワークショップをできたり、ママ会、〇〇教室ができる。
- SNS・WEB活用サポート/ママの働きやすい仕事を生み出す:地域の事業者の発信や導線設計をサポート支援し、在宅で働きたいママの仕事創出にもつながる。
カフェを運営する上で大切にしている考え方や価値観(ミッション・想いなど)を教えてください。
- キッズスペースで地域や社会の課題を解決しながら親と子供の選択肢を広げたい。
私自身、子供が生まれてから全てのやりたいことを諦めないといけない時期がありました。
働き方も遊ぶ場所も「ここしかない」という状況が辛く、自分の子供にもそういった思いをしてほしくないという思いから、「子供がいてもやりたいことができる」空間を今後はもっと広めていきたいと思っています。
編集後記

今回のインタビューでは、榎本さんが「子育て中でもやりたいことを諦めない」という想いから、一歩一歩挑戦を積み重ねてきた歩みを伺いました。出産後に感じた孤独や不安をきっかけに、自宅の庭での小さな遊び場づくりから始まり、廃校を活用したカフェ運営へとつなげていった過程は、まさに“行動する力”そのもの。
印象的だったのは、「一番大変な時期だからこそ動こうと思った」という言葉です。困難を前にして立ち止まるのではなく、その状況を力に変えて道を切り開いてきた姿勢が、榎本さんの原動力になっているのだと感じました。
「子どもがいても、やりたいことができる」――榎本さんが示してくれたその実例は、同じように子育てや働き方に悩む多くの人にとって、希望の光になるのではないでしょうか。












職業:遊び場カフェ(貸切キッズスペース)運営 / SNS・WEB活用サポート
お子さんの年齢:長女6歳(小1)、次女3歳
居住地:和歌山県と三重県の2拠点
勤務形態:ハイブリッド(現地運営+リモートワーク)